MY STORYNo,18
GRADUATE
卒業生
Toyoda
Yui
豊田由衣
JSR 株式会社
工学部 卒業、工学研究科博士後期課程 修了
京都市立紫野高等学校 出身
工学と生命科学の
〈境界領域〉で
ものづくり。
困難も楽しんで、
暮らしを変える
新材料を創る
大学に「工学部」という学部があることを知ったのは高2のころ。京都大学が高校生向けに開く科学講座「ELCAS」への参加がきっかけです。理学部が提供する化学の講座を受講しました。
化学講座なら、もともと関心のあった生物も、物理も学べそうだと思ったのが理由です。授業後に先生と話して気がついたのは、私は生物そのものを解明するよりも、細胞などの仕組みをつかって、なにか「もの」をつくることに興味があるということ。先生からの「それなら工学部はどう?」の一言が進路を決めました。
がん細胞を見つける〈探索物質〉の合成に没頭
入学後は軽音楽部に入部して、バンド活動に熱中。とはいえ、私の大学時代の記憶のほとんどを占めるのは、博士課程まで6年間没頭することになる研究のことばかりです。
取り組んだのは、体内のがん細胞を見つけるためのプローブの合成です。私が着目したのは、がん細胞の呼吸。増殖時はとくに呼吸が活発になるので、がん細胞の周辺は酸素が薄くなります。体内の酸素濃度の薄い場所を見つけられるプローブを新たに合成しました。つくるだけでなく、私のつくった「もの」が実際に機能する姿を見ることがなにより楽しい瞬間でした。
卒業や修了の岐路のたびに、就職するか、進学するかの迷いがありました。進学を選んできたのは、実験をすればするほど、できることが増える手ごたえがあったから。もっともっと突き詰めれば、どんな景色が見えてくるのだろうという好奇心が迷う心の行き先を決めてくれました。
ずっと変わらないものづくりへの志
博士課程の修了後はアカデミア以外の世界をのぞいてみようと、就職活動をはじめました。私の強みは、工学部でありながら、生命科学の分野でものづくりをしてきたこと。一方で、創薬や医療分野で活躍するには、薬学や生物学の領域で学んできた人たちに専門的な知識量で敵わない部分があることも実感していました。〈境界領域〉にいる私だからこそできることをいかせる場所を探して、半導体材料や試薬材料など、多岐にわたる材料の開発に挑戦できるJSR株式会社に就職しました。
5年目のいまは、医薬品の安全性や効き目などに影響する、医薬品添加剤の研究開発に携わっています。一つのテーマをじっくり突き詰める学術研究とは違って、企業の研究開発のゴールは、世間のニーズを的確に掴んで開発を進めて、できるだけ早く上市に結びつけること。開発・製造コストのシビアな検討も必要です。向き合い方は大きく変わりましたが、世の中に役だつ「もの」をつくりたいという思いは変わりません。開発した材料が街のなかでつかわれる日にいつか立ち会いたいです。
京大で育まれたのは、困難な状況のなかでも「おもしろい」ことを見出す姿勢。実験に失敗はつきもので、意気揚々と取り組んでも結果が出ないこともある。もちろん落ち込みますが、見方を変えれば、「この方法ではできない」ことがわかったとも言えるんです。受験勉強でも同じで、模擬試験の点数だけを見て一喜一憂するのはもったいない。失敗はつぎにいかせるヒントの宝庫です。
COLUMN
休日のすごし方
2023年の長期休暇で訪れたシンガポールにて。
休日は、近場のカフェをめぐって読書をするのも好きですが、連休などをつかって国内外を旅するのもリフレッシュになっています。
Recommend高校生のみなさんに手に取ってほしい作品
『コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか』 旦部幸博 著(講談社)
私たちの暮らしに欠かせないコーヒーについての科学的な考察を、医学者であり、コーヒー好きの著者がまとめた書籍です。
歴史や植物学、経済学、抽出を科学的に解説するなど、本の中で文理の枠を超えた科学が広がっています。一つのことをこれほど多角的に分析できるのかと驚きました。一つの興味があれば、あらゆる方向に可能性が広がることを教えてくれた本です。