MY STORYNo,17

GRADUATE

卒業生

Miyake
Kaho

三宅香帆
書評家・作家
総合人間学部文学部 卒業、人間・環境学研究科 博士後期課程 中途退学
高知県 高知学芸高等学校 出身

INTERVIEW

来る日も来る日も
読書に暮れた
大学時代。
試行錯誤で紡いだ
デビューへの道

大学時代を過ごした京都は、まち全体が1つの寮のようでした。
近くに住む友人たちと終電を気にせず夜明けまで喋りとおすなんて、人生でもう二度とない時間だと懐かしく思い出します。授業が休講になればとつぜん2時間弱の空きができたり、部活と勉強で余白のなかった高校時代とは違う時間のあり方に「自由」を感じたものです。そんななかで明け暮れたのが読書でした。

思いがけないバズが生んだ作家デビュー

幼少期からの読書好きが高じて、文学部に進学。とくに日本の古典文学が好きでした。千年前の言葉がいまに伝わっていることそのものへの驚きと感動に心を震わせながら、言葉に遺る昔の人たちの考えに思いを馳せました。ほかにも、ありあまる時間をつかって好きな小説家の作品を片っ端から読んだり、一人の作家を起点に影響元や系譜をとことん辿ったり、新しい本と出会うことで世界を広げてゆく大学時代でした。
研究を通して培った書物を読む技術も、大学時代の財産です。当時、私と同じような熱量で本と向き合い、たくさんの解釈を「読もう」とする人になかなか出会えない寂しさがあったのです。そんなとき出会ったのが佐野宏先生。一つの書から、私よりももっともっとあらゆることを「読める」姿に憧れて大学院進学を決めました。
いっぽうで、つねに頭の片隅に付きまとっていたのが将来への不安。この先の生き方がわからないまま、不安を払うように読書と研究にのめり込みました。そんなとき、アルバイト先の書店のブログに書いた一本の記事が転機をもたらしました。好きな本を紹介したい一心で、本への思いを短評としてしたためたものですが、この記事が反響を呼び、多くの方に届いた。このバズをきっかけに生まれたのが、デビュー作『人生を狂わす名著50』(ライツ社)です。

佐野宏先生の研究室のメンバーと。ここで学んだものを読んだり書いたりする技術がいまの自分の基礎になっています

兼業作家から専業作家への転身

暗中模索のなか、書評を書いていると「これは私のやりたいことだ」と思えてホッとしたんです。書きつづけられる環境を求めて、会社員と書評家との兼業の道を歩みはじめました。就職先は人材サービスを提供するIT企業。目まぐるしく移り変わる世間のニーズを拾い、求められるものを提供することは新鮮で楽しく、忙しさすらも楽しんでいました。その反面、流行に振り回されるしんどさを感じたり、「疲れて本が読めない」自分にも気がついて、3年半後、執筆活動に注力すべく退職しました。「この本を読んでほしい!」。書評を書きはじめたときから変わらない思いと、働いたからこそ得た視点もいかしながら、本の魅力を伝える活動をつづけています。
競争が激しく、せわしない時間のなかでも、自分だけの「好き」の気持ちのおかげで軸を保っていられました。京大で出会った友人たちは、それぞれが特別に好きなものや追いかけているテーマをもっていました。先生たちは1人の人間として学生と対等に向き合って、「君の専門分野はなんですか」と問うてくれる。こうしたやりとりから受けた影響ははかりしれません。京大は夢中になれるものを見つけられる場所。周りの声を気にしすぎずに、好きなことに没入させてくれる京大の時間が私をつくってくれました。

鴨川で友人たちと

COLUMN

近刊の紹介

2024年の上半期に『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)、『娘が母を殺すには?』(PLANETS)の2冊を上梓しました。
前著は、企業で働いた経験にも着想を得て、労働と読書の歴史をひもといたもの。
後者は、小説や漫画、ドラマなどのフィクション作品を参照し、戦後の「母と娘」の関係を論じた文芸評論です。

Recommend高校生のみなさんに手に取ってほしい作品

『大学受験のための小説講義』 石原千秋 著(筑摩書房)

大学受験国語の本……に一見思えるのですが、じつは石原先生が「読むとはどういうことか」について、受験の枠を超えて伝えてくれる本です。小説を読むって、簡単なようで、じつはすごく技術が必要な行為。それを私は本書で知りました。大学受験に必要な国語の知識も身につきますし、それだけでなく、小説を研究する楽しさを教えてくれる本でもあります。
受験勉強の合間にぜひ読んでみて、文学批評っておもしろそうだなと感じた方は、ぜひこちらの世界へ!