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研究者になる

山根久代(農学研究科・助教)

女性研究者として生きるためのアドバイス

私は現在、農学研究科で助教として研究に従事している。まだまだ研究者としても教育者としても駆け出しであるが、この年代であるからこそ可能な視点や考え方が後進の参考になればと思い、筆をとった次第である。特に、これまでに“女性”研究者として得た経験を振り返り、女性研究者を目指す方々に伝えたいことを中心に述べたい。

女性研究者として生きるうえでの一番のネックは仕事と結婚・育児の両立であろう。私が身をおく生命科学研究の世界は日進月歩で進化を続ける分野であり、出産・育児によるブランクは頭を抱える問題かもしれない。私は未経験者であるものの、「両立は必ずできる!」と信じている。私は4年前アメリカ合衆国コーネル大学に留学する機会を得たが、子育てをしながら研究の第一線で活躍する女性教授を多く目にし、大変勇気づけられた。時代の移り変わりとともに、女性が結婚・出産後も仕事を続ける社会基盤が徐々に整い、世間一般の考え方も成熟していくと思う。私自身もそれに期待している。

両立に関してはアドバイスできないので、自らの体験に則って、女性研究者を続けるうえで、これがよかったのではないかと感じる考え方や生き方を挙げてみたい。

1.目の前の課題に集中する
私は元々研究者になりたいと思っていたわけではない。博士後期課程への進学時には大変悩んだが、その当時取り組んでいた研究課題が軌道にのり、やりたいことややるべきことがでてきて、途中で投げ出せず進学を決めた。今日の実験と翌日の実験構想に夢中な毎日を過ごしていた。将来のことは考えなかった。考えたところでどうにもならないし、自分の努力が及ばない範疇のことよりも今目の前にある課題に集中していた。それによって、私の20代は仕事一色となってしまったが、それでもこの姿勢は良いほうに働く場合が多いと思う。

2.感謝の気持ちをもち人間関係を大事にする
自分が今の立場で研究できている状況を考えると、これまでに出会った恩師をはじめ、理解ある両親や、励ましてくれる友人、ともに研究に励む先輩や後輩など、まわりの人々に恵まれていると感じる。研究だけに限らず、仕事においては良い人間関係を築くことは大事である。仕事を続けていくときには、まわりのサポートなくしてはやっていけない場面が多々でてくる。では良い人間関係を築くにはどうすればよいか。ひとつの手段がこれである。毎日の小さな出来事ひとつひとつに感謝する気持ちを持ち続けると、よい人間関係を築けるだけでなく、人生を前向きにとらえることができるように思う。

3.無理をせずたまには自分をほめる
自分が描いた仮説を実験的に証明できた瞬間は、「この世で研究ほどおもしろい仕事はない」と思えるが、実験が失敗に終わった日などは「この世で研究ほど報われない仕事はない」と思う。実際の研究生活ではほとんどが後者な日々である。チャレンジする気持ちを失わず、好きではじめた研究をずっと好きでやり続けるためのひとつの手段は、決して無理をしないことである。そして小さな成功や進歩を大きくとらえて自分をほめるのである。20代の自分はこれがあまりできず、すぐに煮詰まることが多々あった。アメリカに行って一番の収穫は実はこれを実践する人々に出会ったことであった。アメリカ人は自分をよくほめる。毎日をポジティブに過ごすために若干アメリカ人気質をとりいれて、自分の心の中で自分をほめるとうまくいく場合がある。

4.使命感をもち社会とのつながりを意識する
現在私が取り組んでいる研究課題のひとつは、落葉果樹類の休眠現象の分子機構解明である。永年生作物は冬季には外見上発育を停止し休眠状態で越冬するが、昨今の気候温暖化に伴い秋冬季の気温が上昇し、休眠が攪乱され、春の開花の不揃いや遅延が生じ農業への影響が問題視されている。分子機構を解明することで、これらの問題に対処する方法を見つけ出すことが課題である。自分の研究成果がやがては社会貢献につながるという思いは、自分が研究に取り組むうえでのモチベーションのひとつであり、私の研究を支え後押ししてくれるものである。

以上、研究職を続けるうえでアドバイスしたい4点を挙げてみた。これは今現在の私が思うことであり10年前には気づいていなかった点である。読者のなかでピンとくるものがあって実践しようと思う方がおられたら幸いである。

研究職にかぎらず、これからますます女性独自の視点やアイディアが有効に活用され社会に還元されることが必要となる時代になると思う。もし卒論修論研究をやっていて、研究を好きだと感じ、続けたいと思えるならぜひ研究者の道を目指してほしい。努力を続ければチャンスは必ずやってくると思う。現代の女性は仕事・家事・出産・育児・品格・・多くのことを求められて大変である。しかし一度にあれこれ考えて、多くのことを同時並行で実行してしまえる能力が女性には備わっているように思う。自分の力を信じてチャレンジしていきましょう。

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