德地直子(フィールド科学教育研究センター ・教授)
面白いことを続けていきたい
研究者になる” というタイトルの原稿を依頼されました。研究者になるという明確な目的で研究者になったのであればそのように書けばよいのですが・・・
学生時代にはせっかく大学にはいったのに部活しかやらなかったので、もう少し大学らしいことをやってから卒業しようと考えました。しかし、卒業でお世話になる恩師にはこれ以上ご迷惑をおかけするわけにもいかず、またその研究室で扱っていた細かい研究は向いていないように思ったので(やっていないので、あくまでも感じ、です)、もう少し大きなものを扱っているところへ行こうと考えました。大きいものといえば生態系!という単純な発想から、林学科にあった森林生態学研究室にお世話になることになりました。
森林生態学研究室では、森林生態系を物質の動きから把握しようとしていました。ここで物質循環という手法を用いますが、これによって植物や土や水といった複合的な構成物からなる生態系を、(私の苦手な小さいものを対象とすることなく)丸ごと扱うことができそうに思いました。私も窒素を軸にした物質循環を通して森林生態系の特徴の把握、その維持機構の解明という課題に取り組むことになりました。まったく勉強したことがないこともあって、フィールドに行くのも課題も非常に興味深く、大学にはいってはじめて自分で勉強をはじめました。窒素は森林にはおもに降水で供給されますので、降水として供給された物質が森林生態系を通過することでどのように変化し、河川の水質はどのように形成されるのか、という課題に取り組みました。とにかくフィールドにいってサンプルを採取し分析する、ということをひたすら繰り返しました。単純なテーマではありますが、データが増えていくと楽しく感じられ、他の場所ではどうだろうと興味もひろがりました。しかし、四季がありしかも森林を扱って2 年という短い期間では不十分なことが多いため、博士後期課程に進学しました。博士課程への進学についてはあんなに勉強しなかったやつがありえない!と周囲は思ったようでしたが、課題はどうも非常に中途半端であるし仕方ないというところもありました。
進学すると就職の機会が著しく減ってしまうという話もあり、そろそろ自分の将来を考えはじめました。当時も一応(?)男女雇用機会均等ではあったのですが、就職して結婚・出産を迎えた同級生たちがそのようにはなっていないということは強く感じていました。一方、研究は面白いので研究を続けたいと考えるようになりました。そうこうするうちに、タイミングよく研究室の助手に採用していただけました。林学教室で初めての女性ということでしたので、教授にはいろいろご意見があったらしく、また、私も着任後、先生方にご挨拶に伺った折には一言いただいたりもしましたが、暖かく迎えていただけました。
こうして研究職につけたわけですが、ただただ面白いなぁ、こっちはどうなっているのだろう、もう少しやりたいなぁ、という気持ちがつながって研究者になれたのはまったく幸せなことだと思っています。そんな幼稚な動機でも続けてこられたのは先生方、先輩方のご指導があったからだと感謝しています。研究職についたから研究者になったといえるのかは定かではありませんが、研究して生活できる状況が生じたのは大きな変化でした。こうなると真剣に研究しなければならないということと、最初に感じた、森林生態系を丸ごととらえたい、という無謀な課題にも積極的に取り組めるように思いました。とはいえ、そのような課題は一人ではかなえられません。日々目の前のことで精一杯ではありますが、小さいことを続けているうちに、それができるかも、そこへ近づけるかも、と思える様々な分野の研究者や多くの学生さんとの出会いがあり、研究をさらに面白くしてくれたように思います。
ポスドクで何年も過ごすことが多い現在では、研究を続けたいという思いを持ち続けるのが難しい場合も多いかと思います。研究者の数は研究の多様性に直結するものですし、大学は何とかこれを維持できるような工夫をしていただきたいと思います。私の所属するフィールド科学教育研究センターでは、魅力あるフィールドを展開して、面白い研究を続けたいという思いを共有して持続できる施設になるよう努力したいと思います。