京都大学男女共同参画推進センター / Kyoto University Gender Equality Promotion Center

コラム

研究者同士育児分担は当たり前
イクメンとして妻のキャリアを応援

常見 俊直

理学研究科 学術推進部 社会交流室長
専門領域 科学教育、社会連携、科学コミュニケーション、原子核・素粒子物理学

科学者養成プロジェクトELCASを立ち上げ
良き後輩、良き仲間を育成

穏かな瀬戸内海に抱かれた山口県宇部市で育ちましたが、少年時代、日本人で初めてノーベル賞を受賞した湯川秀樹博士に胸をときめかせ、湯川博士に続けとばかりに、京都大学理学部に入学しました。大学院時代の専門は素粒子物理学。物質の最小構成要素を記述する理論「TOE:Theory of Everything」という究極の理論を確立したいと、研究に没頭する日々を過ごしていました。そんなころ、当時の理学研究科長だった山極壽一教授、現在の京大総長から声がかかって、優れた高校生を育成する科学者養成プロジェクトELCAS(エルキャス)の現場責任者となり、科学教育を主軸とした社会連携事業の実践的な研究を行うようになりました。
「創造的であれ」。当時、山極教授から言われた言葉です。物理好きの高校生たちが目を輝かせながら、実験や学びに夢中になっている瞬間は、物理学の研究とはまた違ったやりがいを感じることができます。プロジェクトが立ち上がって10年が経ち、最初の高校生が大学院生となり、良き後輩、よき仲間が育ちつつあります。この社会連携事業はさらに広がりを見せ、今では小学校・中学校・高等学校等を対象に、出前・受入授業を行っています。そんな生徒たちの中には、数学が苦手な子どもたちがいて、 どの段階で苦手意識が芽生え、どんなアプローチをしたら数学が好きになるのか、それも研究テーマのひとつとして取り組んでいます。
古代ギリシャのヒポクラテスの名言に「Primium non nocere(害あるを知りとてなすな)があります。つまり、行動するかどうか迷ったら、行動あるのみ。この名言をモットーに、私も前進あるのみ。次代を担う青少年の科学教育に取り組んでいきたいと思っています。

仕事で培った課題解決力を、育児でも発揮
授乳カードを持つ妻には、頭が上がらないことも

妻も私も研究者同士ですから、イクメンは当たり前。科学教育という仕事柄、京都大学主催の女子高生車座フォーラムや女子中高生のための関西科学塾で、女子生徒たちに理系キャリアの実践を勧めているのに、家の中で妻任せというのは、ちょっとという感じがありましたから(笑)。保育室の送迎は私の担当。おむつ替えも入浴も食事も、お互いが全部できるようにしています。とはいえ、子どもが泣いたら、私は抱っこしてあげるぐらいしかできないですが、妻は抱っこと授乳の二つのカードを持っている。しかも4カ月までは家でずっと子と向き合っていたためか、感覚的なつながり方をしていると感じます。これは妻にはかなわないですね。その半面、私のほうが客観的かな。例えば、赤ちゃんが泣き止まないと妻も感情的に泣いてる子と共感してしまいうろたえますが、私はおむつを替えてほしい、寒いんじゃないか、風邪をひいているんじゃないかと、チェックリストを消去法でやっていく。それで泣き止むことがあります。仕事で培った課題解決力を発揮しているわけですが、そんな私の客観性と妻の感覚的・情緒的な関わり方、両方受けながら、健やかに育ってほしいと願っています。

父親として身に付けた新しい視点は
大学教員としての活動に、さらなる広がりを

最近社会関係資本という考え方がありますが、子どもが生まれてから、地域や社会でいろいろなつながりが生まれました。今まで疎遠だったご近所の人たちや通勤の市バスの中で「赤ちゃんはどうしているの」と声をかけられますし、会議や実践研究の場で一緒になる年配の方にお孫さんがいて、入浴談議で盛り上がり、仕事とは違った共感が生まれました。生活全般が豊かになりましたね。また、市バスの中で子どもが泣き出して困っていたら、運転手さんが「子どもは泣くものですよ。大丈夫です」と数度アナウンスしてくれたこともあります。優先席についても、健康な成人男性がそんな席に座ることは当分ないと思っていましたが、重い赤ちゃんを抱いていると、優先席のありがたみを実感することができました。安全や安心は自分一人の力では担保できない。そんな視点が生まれたことも、育児をしているからこそ。多くの人たちの行動や考え方に影響を受けるという視点は、大学教員としての私の活動にも生きていると思います。
妻は今、任期付きの研究員ですが、正規の研究者として自立できるまで、イクメンとして妻を応援していきます。

学内および公的制度やサービスの活用

京大男女共同参画推進育児休暇・育児休業を取得しなかった大きな理由は、「理学と社会交流」という週1回の講義を維持したかったためです。日本では京大だけが行っている取組で、講義をやめるとゼロに戻ってしまう。裁量労働制など働き方が多様化した今、私のような思いのイクメンも多くいると思います。男性も積極的に育児参加する時代だからこそ、育児休暇・育児休業も、曜日指定で一定期間取れるような、柔軟な対応が求められていると思います。

2018年3月31日