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- 第一線で活躍する研究者たち
- 澤田 茉伊
今は幅広い分野を勉強中。いつかは専門分野をリードする研究者に。
工学研究科 助教 / 澤田 茉伊( SAWADA Mai)
- 京都大学工学部卒業
- 京都大学大学院工学研究科修士課程修了
- 大成建設株式会社
- 京都大学大学院工学研究科博士課程修了
- 同大学院工学研究科 助教
- 研究テーマ:
- 地盤工学に基づく歴史的地盤構造物の保全
紆余曲折を経た研究者への道のり
私が高校生だった当時はオープンキャンパスがなかったため、高3のある日曜日、吉田キャンパスにあった地球工学科の建物を見学に行った記憶があります。工学部を選んだ理由は、当時は二次試験で苦手な国語がなかったからです。あまり大学のことは知りませんでしたが、独特な入試問題、特に数学は難問が並びますが、完璧に解答できなくても考えた過程が重視される点がユニークで、じっくり考えるタイプの自分には合っていると思いました。入学後3回生で本格的に始まった専門分野の基礎科目の授業では、地盤工学の科目が気に入り、班ごとの実験科目は全部自分がやりたいくらいでした。その願いが叶い、4回生では地盤系の研究室に配属が決まり、卒論では地下室に籠って毎日実験をしました。研究室での指導は厳しかったですが、アットホームで、学生同士の仲が良く、修士課程を修了するまでの3年間を楽しく過ごすことができました。修士課程を修了した後、実務における研究に携わってみたいと思い、ゼネコンの研究所に就職しました。4年半でいくつ かの業務に携わりましたが、自分に自信が持てず、行き詰まりを感じていました。私には向いていなかったのだと思います。転職を考え、修士時代の恩師に相談したところ、もう一回勉強したら?と助言をいただきました。自分が変わるしか解決法がないことを、先生は見抜いていたのだと思います。正しい選択だったとはいえ、リーマンショック、東日本大震災と続いた時代だったこともあり、会社を辞めて博士課程を受験するには、勇気が必要でした。ですが、3年後に泣いても笑っても勉強は無駄にはならない、何より自身が変われる、そんな気がしました。博士課程で所属した研究室の先生は、母校に戻った変な卒業生を快く受け入れ、指導してくださいました。自分の意志で入学したものの、将来への不安感から、なぜ自分だけこんなやり直しをしているのだろうと情けなく思うこともありました。しかし、3年間しかないのにこんなことを考えている暇はないと気づき、必死で勉強しました。今思えば、先生方や家族の多大なサポートにより、やり直すチャンスが得られた私はとても恵まれていたと思います。自分なりに研究を進めて先生と議論を繰り返す中で、少しずつ研究を計画・推進する力が身につくと、研究がどんどん楽しくなりました。このような紆余曲折を経て、プロの研究者になる決意をしたときには、もう32歳になっていました。
未来の人たちに古代の景色を見てもらいたい
博士課程で大学に戻ったとき、せっかくなので大学でしかできない研究をと思い、古代の地盤構造物を対象としたテーマを選びました。研究室の指導教員だった先生が、地盤工学の専門家として奈良県明日香村の高松塚古墳などの保全に貢献し、地盤工学×遺跡保全の研究分野をリードされていたことにも影響されました。高校生の頃から、世界遺産のテレビ番組を見たりしていたので、潜在的に遺跡に興味があったのだと思います。最近は、百舌鳥古市古墳群が世界遺産に登録されるなど注目を浴びていますが、築造から1300年以上の間、地震や降雨を受けて危機的な状態にあるものも少なくありません。損傷を受けた古墳を未来に受け渡すためには、修復が必要ですが、外観だけ元通りにしてもかえって状態が悪くなることもあります。損傷のメカニズムを明らかにして、科学的根拠に基づいた方法で修復することが重要です。未来の人たちが遺跡を通じて、古代の景色を見ることができるように、研究者・技術者として保全に貢献し、「〇〇の研究といえば澤田」と名前が挙がるような、その分野をリードする研究者を目指していきたいです。
地道な一歩の積み重ねが自信につながる
研究者は、比較的フレキシブルな時間の使い方ができますが、毎日同じ時間に寝起きし、仕事を始め、終えることにしています。そうすると一日の目標が立てやすく、制限時間内に達成するためには、どのような順で取り掛かればよいかなど、自然と計画できます。達成できずに悔しい日も多いですが、達成できた日は気分爽快です。私はあまり要領が良くなく、努力しなければできないタイプなので、研究は一歩ずつしか進みませんが、着実な一歩がモットーです。大きな研究ビジョンを掲げていても、日々は小さな困りごとの解決に一喜一憂する連続です。期待した実験結果が出ないときには、原因究明のために装置や手順をひとつずつ丁寧に検証し、修理や見直しをします。回り道のようですが、疎かにした一歩は、後でかなりの確率で困ったことになり、大きな手戻りが出てしまいます。自信をもって研究成果を発表するためには、地道な一歩の積み重ねが不可欠だと思っています。
癒しの存在
3年前に怪我をした野良猫を保護しました。猫は、「毎日同じ」に強いこだわりがあり、変化を嫌います。一方、人は変化を好み、進化し続ける必要がありますが、思い通りにいかず焦燥感にかられるときは、「毎日同じ」を満喫している猫を見ていると癒されます。
いつも着ている作業着
広い実験室で探し回らなくていいように、ポケットにはいつも野帳、マジック、ビニールテープ、メジャーなどが入っています。以前は、関数電卓やデジカメも入れていましたが、スマホで代用できるようになり助かっています。
私は研究者になるまでに遠回りをしましたが、社会経験を経て、学問がしたいと強く思う気持ちが生まれたときに、博士課程で学ぶ機会を得る経緯がなければ、研究者になれなかったと思います。大学・大学院では、自発的に学ぼうとする姿勢がなければ何も得られませんが、好きなことを見つけ、自ら学ぶ姿勢があれば可能性はどこまでも無限大です。