機関の現状
京都大学は、「自由の学風」のもと先端的・独創的な研究を育んできたことで知られる世界有数の大学である。この学風のもとで学び研究者を志す大学院生は、平成17年度で約9,200人が在籍しており、うち約2,200人が女子大学院生である。また、教員(研究者)については、約2,900人のうち約200人が女性研究者である。
京都大学における女性教員では、初めての女性助教授は1954年、女性教授は1970年に誕生したが、女性助教授が10名以上になったのは1990年以降、教授が10名を超えたのはやっと2000年のことであった。注目すべきは、その後の加速度的な伸び方である。現状ではまだ、女性教員は全教員の6%程度にすぎないとはいえ、この伸び率が続くとすれば、次の10年で京都大学の研究者の5人に1人が女性になるということも十分に現実的と言える。京都大学は今まさに男性中心の大学から女性研究者の知的活力によりさらなる発展を遂げる大学へと変身しようとしているのである。
もっとも、これまでも京都の女性研究者に活躍の機会がなかったわけではまったくない。京都は女性研究者の強力なネットワークが存在する地として、早くから全国をリードしてきた。例えば、1963年、京都大学の女子大学院生を中心に自宅での共同保育(「朱い実」)を開始し、 この活動の中で翌年、婦人研究者連絡会(通称、婦研連:現在の女性研究者の会)を結成した。この婦研連は、皆で話し合う場を提供し、お互いに励まし合って 、孤立した女子学生・院生が協力する体制を構築した。婦研連はお互いの交流を深めるために「ふけんれんだより」を発行してきてきた。この「たより」は全国に広がって仲間が増え、最近でも日本学術会議と協力して「女性研究者のライフサイクル調査」を行ったり、日本科学者会議と協力して「婦人研究者全国シンポジウム」を開いたりといった活動を続けている。この動きを受けて、京都大学では、育児に関する支援として、1965年4月には北部保育所(現在の朱い実保育園)を、1966年9月には南部保育所(現在の風の子保育園)を開設した。これらの施設は、当時の国立大学としては先進的なものであった。その後、保育所としての認可を得るため、2つの保育所をもつ法人組織を設立し、現在では、それぞれ京都市の公立保育園となり、多数の本学教職員が利用している。
また、女性教員の自主的な親睦と交流のために1981年に発足した京都大学女性教官懇話会も、この種の団体としては全国に先駆けるものだった。懇話会は女性教員の地位向上と差別の撤廃に取組み、実態調査の実施、セクシャルハラスメント問題への取組などを行うとともに、毎年総長への意見具申の機会をもっている。このような活動が現在の京都大学としての女性研究者支援への取組につながっている。
大学としてのハラスメントへの対応としては、平成10年同和・人権問題委員会内にセクハラ対策小委員会を設置して討議し、平成11年にはカウンセリングセンターおよび部局に相談窓口を設けると共にセクシャルハラスメント防止パンフレットを作成し、人権週間を設けて専門家による講演会を開催するなどの啓発活動を開始した。また、これを機会に改組された人権問題対策委員会では、窓口担当者のための研修会を毎年2回開催してきている。更に、平成16年にはカウンセリングセンター、部局相談窓口、ハラスメント対応支援システム等からなる全学対応相談窓口システムの構築構想をまとめ、ハラスメント対策・防止ガイドラインを策定した。平成17年度には、同和・人権問題委員会及び人権問題対策委員会を廃止し、新たに人権委員会を設置して、種々の人権問題に対応すると共に、講演会やパンフレットによる全学への啓発を行うなど全学をあげてハラスメント問題に取り組んでいる。
また、男女共同参画事業については、以前より施策等の学内周知を行ってきたが、平成17年9月には男女共同参画推進体制等検討プロジェクトチームを立ち上げ、平成17年11月に男女共同参画企画推進委員会を制定し、人事・雇用政策の在り方、育児・介護環境の充実、関連カリキュラムの充実、啓発活動等の方策などの具体的支援策の企画・立案に着手している。また、全学的なアンケート調査とは別に男女比率が低い自然科学系の女子大学院生・女性研究者を対象に詳細なアンケート調査を行い、分析し、資料の充実と活用を図った。この他、職場における旧姓の使用を平成14年度から認めている。
また、男女共同参画への学問的な貢献でも、京都大学は早くから最大の中心地だったと言っても過言ではない。とりわけ1980年代以降の女性学、ジェンダー研究、女性史の発展において、京都大学出身者の果たした役割は大きい。この10年間の女性教員の急増により、そうした人々の多くが京都大学教員となり、いまや京都大学はジェンダー研究の全国的および国際的センターとなりうるだけの人材を備えるに至った。その学問的蓄積も活かして、京都大学は今、女性研究者の活力を最大源活かすことのできる大学にまさに変貌しようとしているのである。