キャリアストーリーを知る女性研究者インタビュー
自分が楽しくて、もしかすると人の役に立てるかもしれない
ウイルス・再生医科学研究所 助教/小田 裕香子(ODA Yukako)
- 京都大学農学部卒業
- 京都大学大学院理学研究科
- 日本学術振興会特別研究員
- 神戸大学大学院医学研究科 助教
- 京都大学ウイルス・再生医科学研究所 助教
[研究テーマ] タイトジャンクションの形成機構の解明
調べる事、実験が好きで研究者になることに
大学時代を過ごした農学部は実習が多く、レポートを書くために色々と調べることが楽しいと感じました。「研究をもう少し本格的にやってみたい」と思うようになり、大学院は理学研究科を受験しました。
大学院に入学してからはとにかく刺激的な毎日。実験も先輩方と話をすることも楽しく、吸収することばかりで充実していました。そんな中、大学で研究を続けるか就職するか、という何度か直面する分岐点では迷いがありましたが、自分の考えたことを自由に表現できる大学での研究に魅力を感じ、今があります。
もがき続けた日々。その先で見つけたもの
大学院時代途中からポスドク1年間は理学研究科で、その間ずっと小胞体ストレス応答の研究をしていました。まさにその分野が大きく発展しつつある盛り上がりの時期に研究に関わらせていただいたことは、幸運でした。その後、縁あって神戸大学医学部に赴任し、そこで現在の研究内容でもあるタイトジャンクションの研究を始めましたが、大学院時代と研究分野がガラリと変わったこともあり、テーマをなかなか見つけることができませんでした。クローディンという分子群が見つかった後で、ノックアウトマウスも次々と作成され、やや成熟しきった分野のようにも感じました。やる気や努力が空回りするのが続き、自分自身を責めたり否定してしまったりしたこともありました。神戸の研究室の引越のタイミングで、現所属であるウイルス再生研に異動しました。研究室の明るく自由な雰囲気の中、クリエイティブなことを考えられる思考回路に切り替わっていきました。ラボで購入している妊娠マウスを使って何かできないかと考えました。真っ先に思い巡らせられるのは、散々悩んで勉強したタイトジャンクションのことです。タイトジャンクションがどうやって形成されるのかという問いに迫ることは、大きなチャレンジだとずっと感じていました。タイトジャンクション形成を誘導するような直接のトリガー因子は生体内に存在するのか。あるいはそういったものなど存在しないのか。論文を読み漁っても、クエスチョンそのものがあるのかわからない。それならえいっと、タイトジャンクションをつくらない細胞とマウスの羊膜を共培養する、という雑な実験をしたのがきっかけです。「マウスの羊膜に由来する分泌因子が培養細胞にタイトジャンクションを誘導する」という結果を初めて観察した時、あまりにもびっくりして震えるほどでしたが、同時にこれは何かの間違いだろうとも思い、その後、慎重に慎重に検討を重ねました。ペプチドにまみれながら精製に格闘しその分子を同定することができました。これは、私が双子を妊娠し、出産・産休/育休を経てドタバタの育児と対峙する時期が重なったのですが、男女共同参画推進センターの研究・実験補助者雇用制度のおかげで研究を進めることができました。
夢あるテーマへの前進!
自分の研究の話をした後、“夢あるテーマ”と感動してもらえる日が来るなんて、思ってもいませんでした。このペプチドで、もしかすると炎症やがんが治るかもしれない可能性があり、現在薬にするための技術移転の活動を始めようとしています。
双子育児と研究の両立は想像以上に大変でした。毎日大変ですが、出産前後からちょうど研究が盛り上がってきて「この研究を自分で発展させたい」という強く思い、周囲の支えがあって続けられています。私自身、今の環境の中でできることは最大限しているはずだ、と言い聞かせて日々の研究に励んでいます。先日、大学院時代の恩師である永田和宏先生に「これで10~20年やっていけるんちゃうか」と励ましのお言葉をいただきました。その言葉に背中を押してもらいながら、今の成果を無事世の中に送り出し、さらに新しくわかってきていることを自分の手で発展させていきたいです。
♢ ESSENTIAL THINGS
双子の子どもたち、3歳のお誕生日会
双子の子どもたちは先日3歳を迎え、出産以降すごく大変だったのが少しは落ち着いてきました。
♢ Key Item
お揃いの持ち物。見ているだけで癒されます。
服や持ち物はいつもお揃いです(ケンカして取り合いになるからというのと母の自己満足というのもあります)。何でも小さいものが2つ並んでいるのを見るとニンマリしてしまいます。そのうちそれぞれの個性が出てくるでしょうから、今のうちに楽しむことにしています。
結果の出るテーマをなかなか見つけられず苦しい時期を経て、自分のアイディアで自分自身の手で見つけた!と思うものに出会い、取り組む楽しさは何にも変えられません。最初の現象発見以降、ラボの顕微鏡の前で何度もゾクゾクとワクワクがありました。自分が楽しくて、もしかすると人の役に立てるかもしれない、というのは他の職業ではなかなかないと思います。そんなゾクゾクワクワクを一緒に感じてもらえたらと。