キャリアストーリーを知る女性研究者インタビュー

「今を大切に、そして楽しく」がモットー。“不可能を可能にする分子”を創り出したい。

高等研究院物資-細胞統合システム拠点 教授 / 深澤 愛子(FUKAZAWA Aiko)

  • 京都大学工学部工業化学科卒業
  • 同大学院工学研究科物質エネルギー化学専攻
  • 修士課程修了→同 博士後期課程中退
  • 名古屋大学大学院理学研究科 助手
  • 同大学院 助教
  • 博士(理学)を取得 (名古屋大学,論文博士)
  • 同大学院理学研究科 准教授
  • 現職。工学研究科物質エネルギー化学専攻 兼任。

[研究テーマ] 優れた光・電子機能性をもつ新奇な有機分子性材料の創出

化学者になって新しい物質を創りたい
科学者のルーツを辿ると、多くの場合が子供時代から自然や科学に触れ…というのが多いですが、私自身は幼い頃は本が好きなインドア派、科学とはあまり縁のない幼少時代を過ごしていました。そんな私が科学者を志した契機は間違いなく高校時代にあります。私の母校は、とにかく生徒の自主・自立性を重んじる学校で、まさに「出ていない杭は打たれる」雰囲気のもと、文化祭などの行事の企画や討論合宿で徹底的に意見をぶつけ合うことで、何事も主体的に考え周囲を巻き込みながら行動する力がついたと思います。理系科目では実験に重きが置かれ、自分たちで実験を計画するチャンスもあり、本当の意味での科学の面白さに触れることができました。次第に、新しい物質を生み出せる化学に魅力を感じるようになり、京大工学部工業化学科を目指すことにしたのは、高校3年生になった頃です。それまで学校行事や部活のバスケットボールに熱中していたため全くの実力不足でしたが、そこから猛勉強し、何とか合格。入学後は、サークル活動・アルバイト・趣味を謳歌し、試験直前になって勉強を詰め込むという当時の典型的な京大生で、気ままな生活を謳歌していました。

生活スタイルが一変、研究漬けの毎日に
そんな気楽な生活が一変したのは、研究室に配属された4回生のときでした。
新しい物質を創り出したいという初心を思い起こし、有機合成化学の研究室に飛び込みました。3回生までの実験では、結果が既に分かっている実験を行い基本操作や原理を習得するのに対し、研究室ではこれまで誰も作ったことのない物質の合成に取り組みます。最初にもらったプロジェクトは、ケイ素どうしの結合をもつ新しい有機化合物を合成し、その性質を明らかにするというものでした。合成の難しさから研究が一向に前に進まず、それまでの生活スタイルとの落差も激しかったこともあり、心身の調子を崩しかけたこともありました。でも、研究室の先輩や同期からの玉石混交の様々なアドバイスのおかげで(笑)、「多様な考え方に触れ、自らで考え取捨選択しながら進んでいけばいい」と思えるようになり、何とか乗り越えられました。その後はとにかく文献を読み漁り、時には研究室の別のグループの先生や近隣研究室の先輩にも自分から議論を持ちかけ、実験を重ねることで着実に解決への糸口を見出し、3年半かけてようやくまとまった成果を出すに至りました。当初は博士課程への進学は考えていませんでしたが、いつの間にか研究の面白さに魅了され進学し、その後大学で研究する道を選択し、今に至っています。私が現在取り組んでいる研究は、革新的材料の創製を目指した新しい有機分子の創出です。優れた光・電子機能をもつ新物質の創製は、持続可能な社会の実現の根幹を担う重要課題であり、かつ材料への応用に直結する可能性をもつため、有機・無機材料問わず世界中で活発に研究されています。私はむしろ基礎科学としての側面に強い興味があります。これまで実現できないだろうと考えられていた未踏物性や機能への挑戦は、科学の常識を覆すチャンスを秘めているからです。もちろん既存の技術の改良に確実に貢献する物質創製も重要ですが、私たちは既に誰かが可能性を示した応用の方向性に囚われず、さらにその先を目指し、ユニークな有機分子のデザインを起点に、合成、機能開拓に取り組んでいます。

今を大切に、そして楽しく
研究者である夫と結婚し、子どもが産まれてからは、今まで研究一色だった生活は驚くほど変化しました。さらに京大への異動に伴い夫とは別居を余儀なくされているので、研究の時間を今まで通りに確保することは非常に困難です。それでも、「研究と育児の両立」や「ワークライフバランス」という言葉には抵抗があります。私にとってワークはライフの一部であり、研究と育児は天秤にかけられるものではなく、一方のために他方を犠牲にすると捉えたくないからです。まずは自分と家族の健康を第一に、あとは完璧を目指し過ぎず、頼れる人やモノには割り切って頼ること。恩師の玉尾皓平先生(京大名誉教授)の言葉である「今を大切に、そして楽しく」をモットーに、その都度全力で取り組むしかないと思っています。今は京大で自分の研究グループを主宰するようになって間もなく、まだ何も大きなことは成し遂げられてはいませんが、これまで誰も思いもよらなかった“不可能を可能にする分子”を創り出し、世界をあっと驚かせたい。研究のワクワク感、自分の手でスゴい新物質を生み出した瞬間の震えるような喜びを、学生、研究員のみんなと共有し、有機化学、マテリアルサイエンスの新境地を開拓していきたいです。

♢ ESSENTIAL THINGS

みんながいるからもっと楽しい
一緒に研究してくれる研究室の学生たちと、研究室運営をサポートしてくださる秘書さん。彼らの存在なくして未来はありません。

♢ Key Item

大切にしたい思い
6年前に准教授に昇任した際に、夫からもらったプレート。研究者としてかくありたいと思っています。


性別による向き不向きなんて、そうそうありません。ステレオタイプ的な研究者像や、女性はかくあるべしという雑音には惑わされないで、自分の信念や好奇心を追求してください。日々の子育てや、研究を通じた学生さんとの交流を通じて、子どもや若い学生たちは本当に無限の可能性を秘めていることを強く感じます。私たち大人には、未来を担う若い世代の可能性の芽を大切に育て花咲かせる責任があります。周囲の根強い無意識の偏見に押し込められることなく、未来へ羽ばたいてもらいたいと強く願っています。