キャリアストーリーを知る女性研究者インタビュー
自分の決断を信じ、決定木でたどり着いた先はイルカの研究者!
大学院横断教育プログラム推進センター プラットフォーム学卓越大学院 特定准教授 / 木村 里子 ( KIMURA SATOKO )
- 京都大学農学部 卒業
- 同大学院情報学研究科 修士課程修了
- 同博士課程修了(デンマーク・Fjord&Baelt 研究センター留学を含む)
- 名古屋大学 日本学術振興会特別研究員(PD)
- 京都大学フィールド科学教育研究センター 特定研究員
- 同大学国際高等教育院附属データ科学イノベーション教育研究センター 特定講師
- 大学院横断教育プログラム推進センター特定准教授(農学研究科 兼担)
[研究テーマ] 海洋生物の生態を観測する手法の開発と生態解明
失敗つづきからの、運命の出会い
通っていた高校で出される膨大な課題をこなしつつ、友人と青春を謳歌していた当時、研究室で実験する研究者になる想像は少しはしていたものの、フィールドワーカーになるとは微塵も想像していませんでした。将来像はぼんやりしたままだったので、この時点で職業の選択をすることができず、選択肢の多そうな京大農学部への進学を決めました。
1回生のころは、浪人した反動もあり、徹底的に遊びました。まさか講義をする側にまわるとは思ってもいませんでしたが、このころの経験のおかげでサボりがちな学生の気持ちもよくわかります。(笑)2、3回生のころは家庭教師のバイトに明け暮れ、貯まったお金で海外旅行になんども行きました。3回生の学生実験で失敗がつづき、細かな作業が苦手だと気づいた私は、大きな生きものならば……! と単純な理由で研究室を選び、4回生の研究室配属からは研究一色になりました。
学生の意思を尊重してくれる研究室だったので、「なんの研究をしたいですか?」と先生に聞かれたときに「海で大きい生きもの……クジラの研究がしたい!」と答えたところ、外部機関にいる水中音響でイルカの研究をしている先生となら、いっしょに研究が可能だと紹介されました。そして、その先生のスナメリの中国での調査に同行したことが、研究に夢中になるすべてのはじまりでした。
その後、大学院に進学したものの一般企業への就職の道も捨てきれず、修士1回生のときには就職活動もしました。しかし研究がとても楽しく、もう少しつづけたいと思い、「やれるところまでやろう! いけるところまでいこう!」と決意し、博士後期課程への進学を決めました。
楽しいと思えるのなら大丈夫
最初から研究者をめざしてがんばっていたわけではなく、目の前にある二択の選択肢から選ぶことを続けていくうちに研究者にたどり着いた、と感じています。研究者はたいへんな職業だと思っていたので、このようななりゆきで研究者になることはためらわれましたが、尊敬する先生に「就職も研究もどちらも楽しい、楽しそうだと思うなら、君はどちらの道へ行っても大丈夫だよ」と言われ、やっと研究職に就く決心がついたのです。
いまは、水中の大型生物、おもにイルカなどの小型鯨類を対象とし、海洋生物を定量的に観察する手法の開発と生態解明に取り組んでいます。生物が発する音を利用した受動的音響観察手法、動物に直接機材を装着して行動データを得るバイオロギング手法などを駆使し、対象生物の発する音の特性や発声行動を調べたり、対象生物が「いつ、どこに、どのくらいいるのか」という基礎的な生態情報をあきらかにしたりしています。また、沿岸における船舶航行や洋上風力発電などの騒音が生物や環境に与える影響評価、飼育施設などにおける生物のストレス評価も行なっています。
その研究の過程で、生物(哺乳類)研究者である自分自身が妊娠・出産したことは大きな経験でした。妊娠はたいへんでしたが、まるで繁殖生理学実習をしているかのようで、そのとき自分のお腹の中でなにが起こっているか、別の動物だったらどうなのか、調べたり考えたりすることがとても楽しかったです。
すべてにおいて一流をめざす自分でありつづけたい
研究と生活(家事・育児など)の両立に関しては、私はできているとはまったく思っていません。家は散らかりっぱなし、研究活動も妊娠・出産していた数年分は遅れています。研究も生活もなにごとも妥協したくない性格なので、いろいろな外部のサービスをもっと利用できれば楽なのかも……と思うことも多いですが、子どもが幼いいまはなにごとも楽しむことを第一に心がけています。母、妻、研究者、すべてにおいて一流になりたいと日々願いながらも、まずはいまの自分の状況を受け入れて楽しめていると思います。
たいせつにしているのは、なにごとも自分で選ぶ、自分で決めるということです。私は、進路を決めるとき、就職するとき、結婚するとき、子どもをもつかどうか決めるとき、それなりに悩んで、選択肢のメリット・デメリットを考えながら、後悔のないようにつねに自分自身で決断してきました。結婚も出産もせず海外で研究をする選択肢、研究者にならず一般就職をする選択肢、もっとたくさん子どもを産む選択肢などもあったでしょう。それはそれで楽しそうと、いまなら思えますが、そのとき自分が決めたことに後悔はありません。どんな結果であっても自分で考えて決めたことならば、悔いなく楽しめると信じ、一日一日をたいせつに生活しています。
♢ ESSENTIAL THINGS
週末は家族でおでかけ
水族館、動物園、科学館などによく行きます。子どもとも楽しく遊べ、私の勉強にもなり一石二鳥です。
♢ Key Item
出産間近のスナメリ
以前に撮った写真で、単純に可愛いなと思ってSNSのアイコン等に使用していました。自分自身の妊娠、出産をへて、いまこの写真を眺めると、当時の彼女の気持ち・がんばりを想像し、鼓舞されるような気持ちになります。
研究はとても楽しいです。世界はまだ謎に満ちあふれていて、自分たちだけがふれられる不思議があるかもしれないと思うと、とてもワクワクします。
研究に限らず、なにごとも楽しむことがたいせつだと思うので、ぜひいろいろな経験を積んでみてください。きっと人生のどこかでなにかの役にたちます。悩むことも多いと思いますが、悔いのないように精一杯いまを楽しんでください。心と体の健康を第一に!