キャリアストーリーを知る女性研究者インタビュー

初心忘るべからず。叶えた夢をさらに大きく発展させるために

医学研究科 准教授 / 竹之内 沙弥香 ( TAKENOUCHI SAYAKA )

  • 京都大学医療技術短期大学部 卒業
  • Scripps Memorial Hospital La Jolla→San Diego Hospice and Palliative Care
  • San Diego State University School of Nursing BSN取得
  • 京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学系専攻 専門職学位課程 卒業 MPH取得
  • 同大学院人間健康科学系専攻 臨床看護学講座 助手
  • 同 助教
  • 同大学院 医学専攻 博士号取得→同大医学部附属病院 倫理支援部 特定講師
  • 同大学院医学研究科 人間健康科学系専攻 先端基盤看護科学講座 看護倫理学分野 准教授

[研究テーマ] 看護倫理、看護師による患者の意思決定支援

多くの人との出会いで実現した夢
 高校では、個をたいせつにし、創造性豊かであることを重んじる「自主創造」の校風を、心底エンジョイしたように思います。すばらしい先生や友だちに恵まれ、担任の勧めでチャレンジした生徒会、3歳から習っていたスイミングの延長で入った水泳部の活動や文化祭など、勉強そっちのけで青春を謳歌しました。
 あまりに高校生活をエンジョイしすぎて、大学受験に危機感を感じはじめたものの時すでに遅し。幼いころに流行ったアニメの主人公に憧れ、看護師になりたいと思いながらも家族の反対で文系コースに所属していた私は、1年浪人するなかで、やはり自分の夢である看護師への道をめざすことを決意し、理系に転向しました。
 京大医療短大、アメリカ留学や大学院を合わせると、長く多彩な学生時代をすごしました。医療短大時代には、最終学年になっても就職活動をしていなかった私を心配して、担当の先生が面談し、ひそかに憧れていたアメリカのカリフォルニア州にあるホスピスへの留学を後押ししてくれました。その面談の帰り道に講義でそのホスピスを紹介してくれた先生にばったり出会ったこと、ゼミの指導教員であった恩師からも推奨を得たこと、両親が援助してくれたことで、留学の夢が現実になりました。
 アメリカの大学では、日本で学んだ看護や医療の知識をもういちど英語で学び直し、カリフォルニア州の看護師免許取得まで、ひたすら努力の日々でした。でもそこから得た、たいせつな人たちとの出会いや、念願のホスピスで看護師として働いた経験は、すべて私の宝物です。

看護師の経験を活かして研究者に
 アメリカのホスピス・緩和ケア病棟での仕事は、毎日新しい学びがあり、やりがいを強く感じていました。できるものなら、このままずっとここで働きたいと思うほどでした。しかし、母国のナースの緩和ケア教育や倫理教育に、なにか貢献できればと、5年間お世話になったサンディエゴの仲間やその家族に別れを告げて、京大の大学院に進学しました。
 帰国後は、臨床で看護に専念したいという気持ちがなんども頭をよぎりましたが、大学院で取り組んだ研究プロジェクトをやり遂げるために、研究者をめざしました。当時、アルバイト先の病院で、担当していた患者さんが、私の研究テーマについて、「これからもっとたいせつになる領域だからがんばってほしい」と幾度も励ましの言葉をくださったことも、研究者になる大きな後押しとなりました。
 現在私は、病とともに生きる人とそのご家族に、看護師がどのような意思決定支援をすれば、患者の価値観を反映した医療・ケアを提供することができるのか、患者が満足して日々の療養生活を送ることができるのか、よりよい支援方法を検討し、多くの研究者とともにモデル開発に取り組んでいます。また、日本文化に即した倫理的看護実践と看護倫理教育を進めるために、国際研究や国内共同研究などをとおして幅広い視点から考察を深めています。

役にたち、喜んでもらえる研究成果を
 私生活では、看護研究者の立場から、妊娠・出産・育児の経験をへて多くの発見をしました。身体の生理的変化の不思議や生命の力強さ、Nursing(看護、授乳、育児)のすばらしさを、実体験をとおして学べる貴重な機会は、女性ならではのメリットだと感じました。
 これまでに、子どものケガや病気で、急に仕事の予定を変更しなければならないことがなんどもありましたが、それでも研究と生活を両立できたのは、どんなときもあたたかく支えてくれた上司のおかげと深く感謝しています。
 大学時代からの付き合いの夫とは忙しいながらも、コミュニケーションをたいせつにして、家事・育児を分担しています。夫が私の価値観をよく理解してくれているから、仕事と子育ての双方をがんばれるのだと感じます。子どもの小さいころは、困難な課題に直面しては試行錯誤する日々でしたが、大学の支援や周囲の協力のおかげでここまでやってこられたことは、ほんとうにありがたいことです。
 子どもが少し大きくなったいまは、成長をそばで見守りながらも、「初心忘るべからず」をモットーに、よりいっそう臨床研究に真摯に取り組んでいきたいと思っています。そして、質の高い看護ケアを実践できる看護師の育成や、患者さんのwell-beingの向上につながる研究を実施できる看護研究者の育成に力を尽くすと同時に、多くの医師や看護師の役にたち、患者さんやご家族に喜んでもらえるような研究成果を、一つでも多く発表したいです。

♢ ESSENTIAL THINGS

ひととのつながり
家族は言うまでもありませんが、恩師の教えのおかげでいまがあります。写真は謝恩会にて、任 和子教授(医学研究科、左)、西森三保子さん(元附属病院師長、右)と。

♢ Key Item

元気の源
研究室に飾っているゼミ生さんたちや家族の写真は、いつも元気をくれます。子どもたちがくれる小さな草花をときおり研究室に連れてきます。


大好きなこと、ワクワクすること、熱くなれることをたいせつにしてほしいと思います。うまくいかないときや落ち込むこともあると思いますが、あきらめないで。かならず周りの人や出来ごとがあなたを助けてくれて、ふとしたときに光が見えます。「答えはあなたの中にある」。