キャリアストーリーを知るOG社会人インタビュー

医療とビジネスとの架け橋に。前例のない私だから起こせる新たな風

佐々木 亜沙美 SASAKI ASAMI

医学部人間健康科学科 卒業、医学研究科人間健康科学系専攻 修了
大阪府 大阪府立北野高等学校 出身
伊藤忠商事株式会社(取材当時)

 肉眼では見られないほど小さいにもかかわらず、体内のたった一個が変化するだけで疾患の引き金となる。そんな細胞の不思議に惹かれました。学問として探究したい、そして将来は、悪性の細胞を検査で発見し、診断・治療につなぐ「細胞診断士」になりたい。その両方を叶えられる場所として、京都大学を選びました。
 体操部に所属していた高校時代は、練習漬けの日々でした。勉強が追いつかず、1年後に再受験することに。受験までの限られた時間を有効活用すべく、「同じ間違いはしない!」を目標に、自分の思考の癖や間違えた理由を根本から分析して、勉強にいかしたのが合格の秘訣でした。

予想外・予定外の進路への方向転換
 大学時代はとにかくすべてに全力投球。怪我の影響もあり、体操をつづける気はなかったのですが、「部員を集めて団体戦に出たい」という先輩に懇願されて2回生で入部。またもや練習漬けの日々となりました。2回生から参加した大学院のゼミ活動や、3回生からの資格取得のための病院実習など、時間をやりくりしながらの忙しい毎日でしたが、そのぶん濃い思い出でいっぱいです。
 研究に打ち込むうちに、細胞診断だけでなく、治療にも関心が芽生えて大学院に進みました。研究は楽しく、迷いなく博士課程への準備をしていましたが、友人から「いちど社会を見てみなよ」の一言。助言はすなおに受けとる性格なので、その言葉に納得し、どうせなら想像すらつかない正反対の世界を覗いてみようと、伊藤忠商事のインターンに応募しました。
 そこで驚いたのは、ビジネス界のダイナミックな動き。一つのテーマを深掘りするアカデミアの研究とは違い、商社では医療というテーマにあらゆる方法で働きかけます。治療、予防、創薬などの目的も、投資、協業、新規事業などの手段も、どんなアプローチをしてもいい。ぎりぎりまで進路を迷いましたが、新しい世界を前にワクワクする気持ちに賭けてみようと、就職へと舵を切りました。

体操をはじめたのは幼稚園のころ。大学時代は年に一度開催される、全国七大学総合体育大会を目標に練習に励んだ

未来を広げるには、多様な価値観にふれること
 入社して2年、いまは医療・ヘルスケア分野を扱う部署で営業を担当しています。新規の協業先や投資候補先にサービスや事業を提案・交渉して、ビジネスにつなぎます。
 医学系の院卒女性の採用は前例になかったと内定が出てから知りました。このユニークな経歴はいまでは強みです。営業先には大学や病院も多く、研究の話でもりあがることもしばしば。そんな私だからこそ、新しい風を起こせると感じています。
 働くなかで実感したのは、ビジネスの世界と医療の世界とはまったく違う考え方で動いていること。それぞれを尊重しつつ、医療にビジネスの視点、ビジネスには医療現場の視点が加わればもっと発展できるはず。両者をつなぐ架け橋として、力を発揮することがいまの目標です。
 研究一直線だった私が思いもよらない道を選べたのは、京大で多様な価値観と出会ったから。選択肢は自分の想像の範囲からしか生まれません。たくさんの経験をして視野を広げれば、未来はどんどん広がります。まずは、自分の興味を磨きに磨くこと。そのなかで出会った人や出来ごとが新しいs世界を見せてくれるはずです。

部活を引退し、とことん研究に打ち込んだ大学院時代。
がん細胞の培養中
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休日のすごし方

地元である大阪府箕面市の山。
忙しくても毎月一度は地元に帰省し、自然にふれる息抜きをしています。

高校生のみなさんに
手に取ってほしい作品

『人生に行き詰まった僕は、喫茶店で答えを見つけた』赤澤 智 著(祥伝社)
本当にやりたいことはなんだろう、この選択でいいのだろうかと、どう人生を歩むべきか悩んでいる人に手にとっていただきたい一冊です。喫茶店のマスターが、脱サラリーマンと女子大学生に夢のかなえ方を伝授する実話に基づく小説仕立てのビジネス本で、読者も喫茶店で座って聞いているかのように気楽に読み進められます。年齢や置かれている状況によって感じ方が変わり、私は大学生でこの本に出合って以来、人生の選択に悩んだときにはなんども手にとっています。