キャリアストーリーを知るOG社会人インタビュー

挫折の先に見つけた私らしい生き方。「オタク」を武器に独立・起業

道場 月音 MICHIBA TSUKINE

経済学部 卒業
兵庫県 神戸女学院高等学部 出身
株式会社Hamaru Strategy

 京都大学をめざしたのは、アメリカンフットボール部があるから。アメフトがテーマの漫画『アイシールド21』に憧れたのです。
 でも、志望した経済学部は、第2次試験で数学が必須。私の数学の偏差値は、英語と国語に比べて50は低かった(笑)。苦手意識もあり、いくら勉強しても理解できずに諦めていたところ、「論文試験」の存在を知りました。日本語と英語の評論文を読み、論述で解答する試験で、合格者は25人の狭き門。数学から逃げた後ろめたさを感じつつも、なりふりかまっていられないと挑戦を決めました。

大学時代に経験した挫折
 入学後は、念願のアメフト部にマネジメントスタッフとして入部。協賛企業を募ったり、活動資金を得るためのグッズをつくったりと忙しい毎日でした。やりがいはありましたが、高校までは女子校だった反動もあって「男社会」になじめず、2回生の終わりに退部。部活以外の大学生活もうまくいかず、精神的な疲れから体調を崩してしまいました。
 その結果、卒業には5年かかり、思い描いた大学生活とはなりませんでしたが、この機会に自分を見つめ直そうと、新たなコミュニティとの関わりを増やしました。そして、女性のライフキャリアを考えるイベントの主催をすることになりました。5人のメンバーと手弁当の運営でしたが、有名企業の経営者やキャリア・プランナーを招き、100人以上を集客しました。大学生活を悔いなくふり返ることができるのは、このイベントの成功があったからです。

ふり返って見つけた強み
 いまでこそ起業して「好き」に一直線ですが、最初の就職の動機は将来福祉系の事業を立ち上げたいという思い。そのために社内起業が可能なベンチャー企業に入社しました。しかし、支援の必要な人に手をさしのべることと、自分が恵まれた暮らしをしていることとの折り合いがつけられない私の性格では、福祉の仕事はできないと気づきました。
 ふり返ると、自信のなさの裏返しか、これまでの私は「だれかのために」を考えつづけてきた。でも、まずは好きなことをやりきって、自分自身に満足してはじめて、見えてくることがあるかもと気持ちを切り替えたのです。
 そうして、軸にしたのが「オタク」である自分。漫画やイラスト制作に携わる企業に転職し、ともに起業することになる清水和幸さんと出会いました。新規事業の企画立案を担当しましたが、清水さんと組むと社外のビジネスコンテストの通過率がとても高かったんです。年齢や経歴はまったく違いますが、スキルの凹凸が合致した感覚でした。そして、会社の事業変更などをきっかけに独立し、2020年に株式会社Hamaru Strategyを設立しました。
 私たちが力を入れるのは、アニメや漫画などのエンタメを取り込んだ新規の事業創出のコンサルタントです。依頼者はエンタメ業界に限らず多種多様で、各企業の性格や予算、目的に合わせて、事業のアイデアを提案します。
 私の肩書きはCOO、「チーフ・オタク・オフィサー」です(笑)。近年、オタク向けの事業や企画は多いのですが、オタクは手を抜いた企画をすぐに見抜きます。「愛をもち、愛に甘えない」が信条で、「オタクはこれでよろこぶだろう」という甘えは厳禁。オタクとしてのプライドを胸に、全身全霊でぶつかっています。起業して3年がたち、これからが勝負所。一オタクとしての力が問われる場面が多く、ワクワクしています。

会社員時代に挑戦したコンテストの受賞式

自分らしく 力を発揮できる場所を見つける
 「京大生だからキャリアウーマンをめざしたいでしょ」、「起業家は仕事命」、「上場しなきゃ」などの先入観を押し付けられると、抵抗感や疑問を覚えます。そうした期待に応えようとして、がんばって疲れてしまう人も見てきました。上をめざす人だけが起業していいなんてことはけっしてないはず。仕事の前に暮らしや家族、趣味があるような、私みたいな人が起業してもいいし、そういう価値観でも仕事で力を発揮できると伝えられる存在になりたいです。
 視野を広げようと焦らなくても、新しい場所にいけばおのずと視野は広がります。考えすぎず、いましかできない経験を味わってください。

私のこだわり

高校時代は、英語でミュージカルをしたり、生徒会、ボランティア活動など、どんなことにも全力でした。舞台で話すことが好きで、いまでもプレゼンは特技の一つ。オタク表現の微細なニュアンスを年配の方にわかるように例えてみたり、工夫して相手に伝えることが好きみたいです。