キャリアストーリーを知る男性研究者のワークライフバランス
”夫婦で自然体。感謝は言葉で。”
今村 博臣
生命科学研究科
[研究テーマ] 研究内容:生きた細胞内部の代謝物濃度を画像化する技術の開発と、細胞内の代謝動態に関する研究
東京大学農学部卒業、東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了後、東京工業大学や大阪大学を経て京都大学に赴任しました。妻も京都大学で研究活動に携わっています。
モットーは、「何とかなる」
夫婦ともに関東出身です。結婚することになったとき、既に大阪で働いていた妻と暮らすため、大阪大学で学振の特別研究員になりました。京都大学白眉センターに採用されたあと、そのまま生命科学研究科へ残ることができ、私が京都大学に移ったあとに妻も京都での職を得ることができました。お互いにキャリアが破綻することなく、これまで仕事を続けてこられたのは、幸運だったと思います。
子どもは12歳の長女を先頭に、10歳の長男、5歳の次男の3人がいます。長女はしっかり者で面倒見が良いですが、長男はマイペースで何かに熱中すると他のことが目に入らなくなってしまい、次男はやんちゃな性格でなかなか目が離せません。それぞれに個性があり日々成長を楽しみに見守っていますが、夫婦がフルタイムで働きながら3人の子育てをするのは正直言うとかなり大変です。子育てを始めた最初の頃に困ったのが、急な病気で子どもを保育園に預けられなくなったときです。私も妻も実家が関東なので、祖父母を頼るわけにはいきません。当時は、昼間は私が家で子どもをみて、夕方に妻が仕事から帰ってきたら私が研究室に行って夜中実験をするという、昼夜二交替制でしのいだこともあります。こういう時は時間に融通の利く研究者は良いなと思いますが、学生を指導する立場になるとなかなかこうも行かない時もあります。京大に移ってからは病児保育室にも随分と助けてもらいました。
子どもたちに振り回されつつ、研究・家事・育児と、何とか回せているのではないかと思います。長い出張が入った時などは双方の実家に頼ることもありますが、夫婦で協力し工夫をすれば、だいたいは何とかなると楽観的に考えています。すべてを完璧にしようと思ったり、お互い相手に完璧を求めようとしないのがいいのかもしれません。
家事はできる方がやる
現在、我が家では、妻が主に洗濯や掃除、子どもの勉強、次男の保育所への迎えを担当し、私が主に朝食作りと夕食作り、保育所への送りを担当しています。いつの間にか、自然とそういう分担になっていきました。ただ、私も妻も夜遅くなることもあれば、出張が入ることもあるので、厳密に家事・育児の分担を決めているわけではありません。相手の状況を見ながら、その時々でできる方がやるようにしています。相手が分担している家事・育児の大変さもわかります。また、相手に対しては感謝を言葉で伝えるように心がけています。
私は夕食担当のため、平日は可能な限り19時までに研究室を出るようにしています。私が帰宅する頃に、妻も次男を保育所からピックアップして帰宅します。夜遅くまで研究室で仕事することは難しいので、子どもが寝たあとや早朝に原稿執筆やメールの返信などをするように工夫しています。
意外と大変だったのが家族間のスケジュール調整です。妻と私の二人とも夜遅く帰宅したり、同じ日に泊りがけの出張に行ったりするわけにはいきません。子どもたちも学校行事や習い事があるので、家族5人全員の予定を把握しておかないと、新しい予定を入れることもできません。以前はこれが大きなストレスでしたが、Time Treeというスケジュール共有アプリを使うようになってからかなり楽になりました。
休日は子ども優先
子どもが生まれるまでは、基本的に自分自身の仕事のことを中心に考えていましたが、今は家族全体の幸福度が最大になるにはどうするかを考えるようになりました。特に、子ども達が親と一緒に過ごしたがるのはだいたい小学校までと思うので、今はこの貴重な時間をできるだけ一緒に過ごすようにしています。
所属研究室では土曜日にゼミがあり、夕方まで研究室に行くことが多いため、その他の休日はできるだけ子どもの予定を優先しています。上の二人の子どもが数年前からフラッグフットボールのチームに入り、休日はその練習に付きそうことも多く、自身の運動不足解消にもなっています。また、エネルギーのあり余っている次男が少しでもエネルギーを発散できるよう、天気の良い休日には必ず外へ連れ出すようにしています。こうして子育てをしていく中、自分の子供のころを思い出し、自分はこんなに手がかかったのかと気づくこともあり、あらためて親に感謝しています。
現在の仕事について
研究者を目指した理由:
研究室に配属となって研究を始めてみたら、面白くて止められなくなりました。
研究内容:
生きた細胞内部の代謝物濃度を測定する技術を開発しています。また、その技術を用いて、細胞が代謝を制御する仕組みを研究しています。日々タンパク質を改変したり、細胞の世話をしたり、顕微鏡を覗いたりしています。分野としては、生物物理学、生化学、細胞生物学になります。
研究テーマを選んだ理由:
最初から現在の研究テーマを進めようとしていたわけではありません。一貫してタンパク質を研究対象のひとつとして扱っていますが、その時々で面白いと思ったことを追求してきた結果、現在の研究テーマにたどり着きました。
研究で心がけていること、モットーは?:
ある研究テーマを開始する時には、できるだけ次の3原則から外れないようにしています。
①成功した時に十分なインパクトが期待できること。
②自分たちがやらなくても近いうちに他の誰かが進める研究ではないこと。
③どうしても自分自身でやりたいと思えること。
DeNA創業者の南場智子さんのパクリなのですが(笑)
今後の目標:
他の研究者の考え方ややり方に影響を与えるような研究成果を一つでも多く出していきたい。
学内および公的制度やサービスの活用
現在5歳になる次男は、妻が育児休暇から復帰するときに京都市の認可保育所へ入ることができず待機児童となってしまいました。その際に、京大保育園入園待機乳児保育室に年度末まで預かってもらいました。また、京大病院の病児保育室には3人の子ども全員がお世話になりました。
若い世代へのメッセージ
特に若い男性に向けてですが、配偶者の仕事やキャリアのことも自分と同じくらい大事に考えてほしいと思います。家事や育児もやってみれば意外とできるようになりますし、あまり構えすぎず、多くの男性が家事・育児に積極的に参加するようになることを願っています。
=取材を終えて=
淡々と取材に応じて頂きました。自然体。感謝する言葉。なかなかそう思っていても口に出せないものですが、夫婦としては理想的だと思いました。気負わない生き方がよかったです。でも、子育てって大変ですよね。