キャリアストーリーを知る男性研究者のワークライフバランス
子どもは3歳までに一生分の親孝行
育児で人生を2度楽しもう!!
渡辺 範雄
医学研究科 社会健康医学系専攻 准教授
[研究分野] 臨床疫学、健康増進・行動学
精神保健指定医、精神神経学学会専門医/指導医
目の前の患者さんだけではなく
ほかの場所、将来の患者さんに役立つ研究を
医学部を卒業して、医療のどの分野でも専門として選択できたわけですが、一番難しく感じたのが、心の問題でした。例えば、内科だったら検査値である程度判断できるし、外科であればその分野のエビデンスがありますが、精神科の場合はどこか、とらえどころがない。患者さんに限らず、私たちだって、何かあれば落ち込んだり、眠れなくなったりと、心の問題は曖昧で誰にも当てはまること。しかも、一人一人の生活の質にも大きく影響しますので、そこを追及してみたいと思ったのが、精神科医になったきっかけです。
それこそ、診療を始めて5年くらいは、一生懸命治療すれば患者さんから「ありがとうございました」と感謝され、やりがいを感じていました。しかし、ほかの診療科もそうかもしれませんが、精神科領域はわからないことだらけ。各医師の治療法もそれぞれで、じゃあ、実際にどの治療方針が適正なのかを考えた時、目の前の患者さんだけではなく、ほかの場所、将来の患者さんにも役立つことを見つけたいと思い、研究者の道へと舵を切りました。
私が所属する社会健康医学系専攻は、2000年にわが国で初めて開設された公衆衛生専門大学院です。臨床疫学の手法を応用して、病気の人の治療だけではなく、生活習慣病などを未然に予防し、 社会全体の健康増進を目指す学問です。私自身は精神科医なので、メンタルヘルスが研究の中心課題。ここ数年は睡眠に取り組み、最近はメタ解析で睡眠時間とその後の疾患の関係を研究しました。6時間未満や9時間以上の睡眠時間は、生活習慣病などと有意に相関します。最近では、労働者、特に看護師さんはストレスが高く、うつやバーンアウトする人が多いので、その人たちの予防介入の研究を行って結果をまとめています。
イクメンという言葉に違和感も
育児や家事も分担
育児を妻だけに任せておくのは、もったいない。日に日に成長していく姿は愛らしく、妻の就労支援というより、今は育児自体が楽しみのひとつです。イクメンという言葉にむしろ違和感があるのは、私だけではないと思います。仕事を持つ妻が、育児も家事も全部こなすのは、絶対無理ですからね。妻は同じ医療者ですが、パートタイム勤務。私も研究と教育がメインですから、昨今報じられている医療者のオーバーワークとは異なり、比較的ゆとりのある家庭生活です。とはいえ私は国内外を含めて出張が多く、妻に負担をかけていますから、帰ってきてからは、その分を取り戻そうと頑張っています。
子どもが生まれて変わったことといえば、育児だけでなく家事も積極的にやっています。今までちょっと妻に甘えていましたが、洗濯物を片付けるにしても、自分一人で完結して、妻の手を煩わせない。そうじゃないと、私たち夫婦にも亀裂が入るんじゃないかと(笑)。
わが子もようやく少しずつ歩けるようになり、公園を歩いている姿を見るだけで、感動します。
子どものリズムを優先し、効率的で健康的な生活に
最近、ソーシャルリズムと疾病の関係性に注目しています。朝起きて最初に人と話すのは何時ぐらいで、食事は何時ごろ、睡眠は何時という生活のリズムやその乱れが、うつ病や生活習慣病に影響するのでないかといわれてきましたが、その真偽や是正効果を研究しようと思っています。そういう意味でいうと、私の生活リズムは子どもが生まれてから整いましたね。以前なら何となく遅くまで研究室にいましたが、効率の良い時間の使い方を心がけるようになり、私自身も健康になっていると感じます。もちろん、子どもには生活リズムが非常に大切ですから、それを意識した生活です。
ある意味、子どもができることは、2度人生を楽しめるということ。子どもの目で物事をもう一度見直す良い機会になっていると思います。
「子どもは3歳までに一生分の親孝行をする」といわれますが、私もそれを感じています。わが国では大学に限らず、ビジネスの現場でも、職場に長くいる方が偉いという風潮があります。特に男性はこの風潮から逃れられないとは思いますが、若い人の意識は変わりつつあります。育児で人生を追体験して、子どものころのような旺盛な好奇心、瑞々しい感性を呼び戻し、仕事や人生の幅を広げてほしいと思います。
学内および公的制度やサービスの活用
京大男女共同参画推進センターの保育室は、ベテランのスタッフが多く、国籍の違うお子さんがいたりバラエティー豊かです。小さいころから、様々なお子さんと触れあうことは良いこと。恵まれた環境です。とはいえ、ここを退所後に中途入所を受け入れてくれた認可保育園はなく、今のところ認可外の施設に頼らざるを得ない状況です。妻を支える夫の役割も大切ですが、個人の力には限界があります。男女共同参画を進めるためには、こういった社会のインフラを整備する必要があると思います。
2018年3月31日