キャリアストーリーを知る男性研究者のワークライフバランス

公的な支援や周囲の協力に支えられながら
夫婦それぞれの目標に向かって一歩ずつ

南 澈熙(ナム・チョルヒ)

大学院生 工学研究科材料工学専攻 博士後期課程1回生

 

産業の根幹をなす材料工学
この分野でいずれは研究者の道へ

母国の韓国の大学院で修士課程を修了し、日本の大学で勉強された先生方の勧めもあり、京都大学工学研究科に留学しました。専門は材料工学。Ni基超合金の凝固過程について研究しています。材料工学は、あらゆる産業を支えるインフラのような存在です。中でもNi基超合金は、高温強度、耐食性、耐酸化特性等に優れているため、航空機用ジェットエンジンや船舶のタービンなどの最重要部材として使用されています。ところが材料の特性を発現させるための凝固過程について、未解明の現象も少なからずあり、これが解明されれば、Ni基超合金以外の金属にも応用できますから、産業の発展に貢献できることでしょう。京都大学で博士号を取得したら、いったんは企業に就職して現場を体感し、その経験を生かして、いずれは研究者を目指したいですね。

家族の笑顔に
研究のストレスはどこへやら

都市社会工学を研究する妻も韓国人です。京大へ留学して博士号を取得後、韓国の大学院で研究助手として働いていましたが、わたしの留学が決まったとき、京大の海外客員研究員に採用され、一緒に京都へやってきました。京都暮らしでは妻が先輩ですね(笑い)。
妻は産後2か月で研究室に復帰し、娘を「保育園待機乳児保育室」で預かってもらうことになりました。送迎はわたしの役割。研究室から近いですからね。おむつ替えもミルクをあげるのも、授乳後のゲップ出しも、帰宅後の育児は全部わたしが担当しています。研究や家事に加え、育児まで妻がやっていたら、寝る暇もありませんから……。研究者としての妻を応援するためにも、できるかぎり手伝いたいと思っています。
最初はなぜ夜泣きをするのか、わからないことが多くて戸惑いましたが、最近はハイハイしたり、わたしの顔を見るとにっこり笑ってくれたり、たまらなくかわいいですね。
研究でストレスを感じても、家族の笑顔を見ると疲れが吹き飛びます。

日本でも韓国でも男性の育児参加が当たり前の時代へ
お寺や神社が多く、緑豊かな京都は育児にはとても良い環境です。休日には家族と京大の吉田キャンパスや鴨川沿いを散歩するなど、楽しい家庭生活を過ごしています。
とはいえ、博士号を取得するためには、娘を保育園に預けられる9時から6時まででは、時間が足りません。わたしの場合、娘は遅くとも10時には寝ますから、その後の時間を研究にあてています。また、1週間から2週間と長期に出張し、実験をするときには、韓国の両親に来てもらって、娘の面倒を見てもらっています。
日本では「男性は仕事、女性は育児と家事」という性的役割分担意識が残っているようですが、最近になってようやくイクメンという言葉が定着し、育児休暇を取る男性も増えてきていると聞いています。韓国でも育児・家事は女性の役割という傾向にありますが、少しずつ変わりつつありますね。実際、わたしも韓国の母親に、「子どもが生まれたら、育児をする父親になりなさい」と小さいころから、言われてきました。
夫婦それぞれの目標に近づくためには、周囲の協力や支援が必要ですね。妻が京大の保育所を見つけてきたように、皆さんも公的な支援を受けながら、目標を実現してもらいたいと思っています。

学内および公的制度やサービスの活用
娘は7月生まれですから、公的保育園への4月入所申請はすでに終わっており、京大の「保育園待機乳児保育室」を見つけてきたのは、妻。手続をしたのはわたしです。韓国やフランス、中国など、国際色豊かな環境で、日々成長しています。ことしの春からは、京都市の保育園に入所予定です。