News Letter 2024.7.30 第115号
2024年度「女子学生チャレンジプロジェクト」採択者決定
「女子学生チャレンジプロジェクト」は、女子学生がチームリーダーとなって、自らの好奇心や探求心を核とした新しい課題に挑み、多様な視点から議論し協働するプロセスを通じて研究の面白さを感じられる、そんな活動を支援する事業です。
今年度は31件の多岐にわたる興味深いテーマの応募があり、書類選考の結果、12件が二次審査に進みました。最終的に採択された5件のテーマは、ユニークな課題設定とその解決に向けた挑戦的な取組である点が高く評価されました。
これを受けて、2024年7月10日に、学術研究展開センターの伊藤 健雄 副センター長、藤田 弥世 リサーチ・アドミニストレーター及び豊田 裕美 リサーチ・アドミニストレーターの協力により、採択チームを対象としたオリエンテーションを実施しました。
まず、蓮尾 昌裕 理事補(男女共同参画担当)の挨拶があり、各チームへの期待が述べられた後、参加者の自己紹介がありました。その後、藤田リサーチ・アドミニストレーターから「プロジェクトマネジメント研修」と題した研修では、タスク管理やメンバー間のコミュニケーションの取り方など、プロジェクトマネジメントの基礎知識についての説明やグループワークが行われました。
こうしたプロジェクトに参加するのが初めての参加者もおり、真剣な面持ちで説明を聞く様子が見られました。続く豊田リサーチ・アドミニストレーターによる各チームのピッチ発表と質疑応答では、グループワークの効果もあり、次第にリラックスした雰囲気となりました。
イベント終了後も会場に残った学生がチームを超えて交流し、プロジェクトの開始にあたって活発な情報交換が行われました。
採択チームは今後、設定した研究計画に沿って2025年2月末まで活動し、3月に成果報告を行う予定です。
育児中の出張に使える支援制度があります!
令和5年11月1日より、『学会・研究会等参加に伴う臨時的託児関連費用支援制度』として支援を開始しています。
この制度は、小学校6年生までの子どもを養育する研究者が学会・研究会等に参加する際に臨時的に必要とな
る、託児費、子どもの移動費、及び子どもの宿泊費の一部又は全額を助成するものです。(子どもが出張に同行しない場合の託児費も対象です。)
昨年度の支援開始以来、多数の申請をいただいており、利用者からも、「配偶者も同じ分野の研究者で、どちらかが学会の出席を見合わせていたが、この制度により、両方で参加でき、貴重な知見を得ることができた。」など、育児中でも、支障が無く研究活動ができたという声を多数いただいています。
本制度の内容及び申請方等は以下センターHP に掲載しています。
https://www.cwr.kyoto-u.ac.jp/support/conference/cost-support/
学童保育施設京都大学キッズコミュニティ(KuSuKu)
「こどもの日特別ランチ会」をtoberu 協力のもと開催しました!
こどもの日のイベントとして5月5日に、京都大学キッズコミュニティ(KuSuKu)を利用した子ども向けに、「特別ランチ会」を開催しました。
この日は、KuSuKu の近隣のインキュベーション施設「toberu」の専属シェフに、本格的なイタリアンメニューを子どもたちでも食べやすい味に工夫していただきました。
https://www.cwr.kyoto-u.ac.jp/post-10562/
また、6月8日には昨年12月9日の開所以来、利用者がのべ1000人を超えました。
今後も育児中の研究者等が安心して子どもを預けることができる環境の充実と、子どもたちに、京都大学の研究リソースを活用したアカデミックプログラムを提供し、好奇心や探究心をs育む機会を提供していきます。
「女子高生へのメッセージ動画」公開中
京都大学を目指す女子高生へ向けた動画をHPで公開しています。
京都大学を卒業し社会へ出て活躍している先輩たちから、現在の仕事について、大学時代の勉強と生活、そして高校時代どう過ごしていたかなどの話を聞くことが出来ます。最後には進路に悩んだり、受験に不安を抱えている女子高生への応援メッセージが収録されています。新しく卒業生の動画が加わりました。
https://www.cwr.kyoto-u.ac.jp/story/message/
学生・研究者・卒業生紹介サイト「MY STORY」
こちらも更新していますので、是非ご覧ください。
https://www.cwr.kyoto-u.ac.jp/mystory/
メンター相談
京都大学男女共同参画推進センターでは、女性の先生方にメンターをお願いし女性の学生、院生、研究者の相談を受けています。「研究分野の選択で迷っている、研究を続けることに漠然と不安がある、研究分野を変えたい」など、研究上のことで困ったときはもちろんのこと、キャリアに悩んだりアドバイスが欲しいときなど、相談に対応しています。
2024年度メンターには理系80名・文系33名登録されています。
ご利用の際は下記URLをご覧ください。
https://www.cwr.kyoto-u.ac.jp/support/consult/mentor/(日本語)
https://www.cwr.kyoto-u.ac.jp/en/mentor/(英語)
男女共同参画推進「こんな取り組みをしています!」(7)
教育・研究活動と育児等の両立のための支援充実・環境整備 取組事例紹介
エネルギー理工学研究所 https://www.iae.kyoto-u.ac.jp/new-iae/NewsRelease/JP/2024/04/01-140503.html
エネルギー理工学研究所では、構成員のみが使用できる女性専用休養室を2024年3月に設置しました。
以前は職員の多目的室として利用していた部屋を整備して、部屋の奥に畳敷きの小上がりを設置し、横になって休憩する時にはロールスクリーンを下げられる仕様としました。他には椅子とテーブル、冷蔵庫や流し台もあり、ゆったりとリラックスできるスペースとなっています。また、利用者の利便性と安全面を考え指紋認証キーを採用しています。
利用者からは「カラダをリセットするに相応しい施設であり、生産性向上にもつながっている。」「体調がすぐれない時に横になれるので安心です。」などの感想をいただいています。
連載: 研究者になる! -第96回-
人間・環境学研究科 准教授 田口 かおり
15歳のころ、旅行先のイタリアではじめて目にしたミラノの大聖堂と、フィレンツェでめぐり会ったフラ・アンジェリコの壁画が道を決めました。大聖堂のあまりの大きさと複雑さ、壁面の人物たちがまとう衣服の色鮮やかさに衝撃を受けたのです。「どうしてこんなに美しいままに事物がのこるのだろう」。文化財の保存に関わる仕事を探すなかで、絵画修復士という職業にたどりつきました。
そうと決まれば、まずはイタリアに行かなければと、イタリア留学ができる近隣の大学を探して進学しました。1回生と3回生の時に留学して、修復工房を訪ね歩き、情報を集めてまわったのです。
■正解のない絵画修復に挑む
日本の大学を卒業して、フィレンツェ国際芸術大学に入学。デッサンや美術史、材料技法学や修復理論など、必要な技術と知識を学びました。苦労したのは化学。作品の物質的な構造や性質を知り、絵画表面の洗浄に使う薬剤の調合などに必要な知識を身につける授業です。修復士になるためには必須の知識ですが、化学はほぼ未履修。おまけにイタリアの試験は口頭形式が多いので、丸暗記では乗り切れない。苦手意識をふり払って、独学で高校の教科書から学び直しました。
資格取得後は、絵画修復士としてフィレンツェ市内の修復工房で働く機会を得ました。貴重な経験を重ねるいっぽうで、壁となったのが外国人労働者として働く際に必要な各種許可書や給与をめぐる問題です。アルバイトをしながら修復に携わるなかで、経済的・身体的にも疲れがたまり、絵画と向きあう時間が削られてゆきました。
私が胸に刻んでいたのは、ある美術史家が述べた「修復は批評である」という言葉。たとえば、作品によっては制
作当時の状態を目指して復元的に修復するよりも、経年劣化こそが重要な意味を持つことも。作品にとってなにが重要かを考えて、ときには依頼主の意向を汲み取りながら最善の方法を模索します。修復とは、異なる作品をひとつひとつ理解し、ふさわしい道を探すこと。多忙な日々のなかで、ここが疎かになることに葛藤を感じはじめていました。
ここでいちど立ち止まり、各作品や保存修復という学問そのものと時間をかけて向きあいたい。美術史家であり、修復の射程についても検討を続けておられた岡田温司先生と出会い、京都大学に飛びこみました。だれもがそれぞれの研究テーマを熱心に追究する人間・環境学研究科の空気に助けられて、私もぞんぶんに関心を追求できました。
■保存・修復の実技と思想の結び目に
いまは、研究や修復実践のかたわら、コンサベーター(Exhibition Conservator)として展覧会での仕事にも携わっています。コンサベーターの仕事は、展覧会のために国内外から借用した作品を点検して、部分的に修復をした
り展示環境を再検討したりなど、所蔵者とも話しあいながら返却までの状態管理をする、というもの。現場には戻れない覚悟での進学でしたが、直接に作品に触れるとやはり大きな喜びを感じます。
京都大学総合博物館で企画展を開く機会もありました。京都で活躍した造形作家、井田照一の作品《Tantra》との出会いがきっかけです。自身の爪や、その日の食事などを画材に使い、病に冒された日々を記録したいわば日記のような作品群ですが、絵具だけで描かれた作品とは構造や耐久性が異なるだけでなく、独特の臭気がある。視覚だけではなく嗅覚も呼びこむような作品について、どう展示し後世にのこすのか、私のなかに新たな課題が芽生えました。保存修復の分野でおこなう調査を通じて発見した作品の姿や情報を展覧会などで届ける活動は、これからもつづけていきたいです。
私がそうだったように、現代の人たちは日々の生活や仕事が忙しすぎて、焦りゆえに、ぼんやりする時間を恐れてしまうことがあるように思います。私はいったん仕事から離れて、作品を無心で眺める時間を増やした京都で、多くの新しいひらめきと出会いました。なにもしない時間をもつこと、流れに身をまかせること、そしてオープンな心で次の展開を待つことが、時として人生に大きなおくりものをもたらしてくれると信じています。