News Letter 2022.1.15 第100号
「創刊100号に寄せて」
男女共同参画推進センター長
理事・副学長 稲垣 恭子
ニュースレター「たちばな」は、本号をもちまして創刊100号の節目を迎えることができました。
本誌は本センターの前身である女性研究者支援センターの広報を目的とする「ニュースレター」として2006年11月に創刊されました。その後、ニュースレター「たちばな」となり、2014年4月に男女共同参画推進センターが設立されてからも引き続きセンターの事業活動や本学の男女共同参画に関するトピックを紹介してまいりました。
その間、本学の男女共同参画においては、平成18年度科学技術振興調整費「女性研究者の自立的研究環境整備促進」に採択され、事業終了後は「京都大学重点アクションプラン」に位置づけられ、活動を継続しています。
次年度からは、第4期中期目標・中期計画に伴って新たに策定した「京都大学男女共同参画推進アクションプラン(2022年度~2027年度)」がスタートします。
このアクションプランでは、女性教員や女子学生の比率を向上させるために、数値目標の設定や積極的な支援策、また育児・介護等の支援や環境整備、広報活動の拡充などの具体的な方針を設定しています。これらの実施を通して、教職員・学生全体で本学におけるジェンダー平等をこれまで以上に推進していきます。
これに伴って、広報誌であるニュースレター「たちばな」におきましても、本学で実施される数々の事業やその成果を広く皆さまにお伝えするとともに、本学の女性教員や各界で活躍する本学出身の方々のインタビュー記事等、さらに充実した楽しい内容にしていきたいと考えています。
引き続き、皆様のご理解とご支援をよろしくお願いいたします。
ニュースレター創刊号とニュースレター「たちばな」初回号
女子高生・車座フォーラム2021
11月7日(日)に「女子高生・車座フォーラム2021」を昨年度に引き続き、オンラインにて開催しました。このフォーラムは男女共同参画推進センター主催で、女子高生に京都大学での学生生活や研究者の仕事を知ってもらうという企画です。今年で16回目の開催となり、女子高生99名、保護者11名の参加がありました。開催にあたっては申込者に事前に接続テストを実施し、参加にあたり不具合がないかを確認して当日を迎えました。
フォーラムは今村 博臣男女共同参画推進センター広報・相談・社会連携事業ワーキンググループ主査の司会のもと開会しました。はじめに、稲垣 恭子センター長より挨拶があり、京都大学は知的好奇心や夢を育てていけるところであることを中心に話があり、「本日の車座フォーラムを有意義に楽しんでいただき、皆さんが京都大学にチャレンジされることを心待ちにしています。」と締めくくりました。
続いて、大学の体験型海外渡航支援制度「おもろチャレンジ」の紹介があり、体験者2組、総合人間学部の田中 花音さんの「サイエンティフィックイラストレーターの夢をパリまで追いかけて」と大学院医学研究科のTRINH THANH HAIさん、教育学部の中山貴美子さんの2名による「レッジョエミリア教育と森の幼稚園から考える自然と人間のつながり」のプレゼンテーションが行われました。
その後、女子高生は希望学部別のグループワークを教員と京大生と共に行いました。事前に集めた質問内容をもとに活発な意見交換が行われ、中には資料を作成するなど工夫をする学部もありました。また、京大生からは受験勉強や学生生活に関する実体験が聞けたりと、非常に内容の充実したグループワークとなりました。一方で保護者は京大生との交流会に参加し、受験生を持つ保護者ならではの視点で様々な質問がなされ、京大生は受験生時代に親にして欲しいこと、して欲しくないことなどについて率直な声を伝えるといった有意義な交流会となりました。
グループワーク終了後は足立 壯一男女共同参画推進センター支援室長の進行のもと、全員でまとめの会を行いました。それぞれの学部の講師よりグループで話し合った内容の報告があり、他グループの話し合いについての情報の共有をしました。その他、他学部から寄せられた質問に対して関連する学部の講師にその場で回答いただき、議論が盛り上がったまとめの全体会となりました。最後に入試企画課から入試説明の動画を配信し、閉会しました。
車座フォーラム アンケート(参加者合計110名中97名回答)
女性教員懇話会セミナー 第4回ハラスメント問題研究会
「自分ごととして考える:京都大学におけるハラスメント対応制度をもとに」
12月14日(火)12時10分−13時に第4回ハラスメント問題研究会が開催されました。
中川 純子准教授(京大学生総合支援センター・カウンセリングルーム)に京都大学の相談制度について解説していただきました。その後、大浦 綾子先生はじめ8名の弁護士、参加者との間で質疑応答があり、相談・調査の担当者を分けることは適切であること、他大学では調査に弁護士等第三者があたる制度の採用例があること、カウンセリングルーム(https://www.gssc.kyoto-u.ac.jp/counsel/information.html)は教員も利用できることなどを教えていただきました。
次回研究会は、2022年1月25日(火)12時10分−13時「ハラスメント問題Q&As」と題して開催され、問題に詳しい8名の弁護士の先生に、ご質問に答えていただきます。参加申込・事前質問は、こちら〈https://bit.ly/3s501aG〉から受け付けています。
研究者の妊娠・出産・復帰その② いつから休む?
前回より、研究者の妊娠・出産・復帰に関連して生じる悩みや課題を扱っています。2回目である今回は、産休・育休の取得を取り上げます。
一般に、産休とは産前休暇および産後休暇を略したもの、育休とは育児休業を略したものとして使われており、本コラムでもそれに倣いたいと思います(注1)。
産前休暇の取得は、本人の判断に委ねられており、出産予定日の6週間前(双子以上の場合は14週間前)から、請求すれば取得できます。これに対して、産後休暇は、強制休暇で、本人の意思にかかわらず、出産の翌日から8週間は就業することができません(ただし、産後6週間を経過後に本人が請求し、医師が認めた場合は就業することができます)。産前・産後休暇は、取得してもその間給与は従来通り支払われます(注2)。
一方、育児休業は、一定年齢以下の乳児を養育する就労者が、男女を問わず、希望する期間子どもを養育するために休業することができるものです。本学においては、常勤教職員の場合には3歳に満たない子が対象となります。
また、常勤教職員以外の場合には、原則として1歳に満たない子が対象となりますが、一定の事情があれば、1歳6ヶ月または2歳に達するまで取得できます。育児休業の間は、給与は支払われませんが、一定の要件を満たしている場合は雇用保険から「育児休業給付金」が育児休業中に支給されます(注3 )。
出産予定日が決まれば、産前休暇が取得可能な時期が定まります。正式な申請は取得する直前にする場合であっても、研究・教育活動の関係者に見通しを与えるために、いつから取得するかを早めに決めて、伝えておくことが望ましいでしょう。自分が抜ければなりたたなくなる業務がある場合や担当が決まっている授業がある場合には、代理を探す時間を見込んでおかなければなりませんし、研究や発表のスケジュールも関係者の協力を得て見直すことが必要となってくることもあります。
各種の研究費には、産休・育休の間は使用できなくなるものもあります(注4)。本学では、簡単に以下のような取扱いがされています。例えば、科研費については、研究中断届けを出していなくても、産休・育休中の科研費執行は認められず、科研費を用いた雇用もできません。ただし、研究代表者が産休・育休を取得する場合、産休・育休を取得しない別の者に研究代表者を変更すれば、当該科研費を用いた雇用を継続することができます(なお、科研費の申請自体は産休・育休中においても可能です)。その他の外部資金については、外部資金の提供元と研究代表者の了解のもとで、別の取扱いができることもあります。各部局に配分された運営費を財源とするものについては、各部局の判断に委ねられます。以上は、読者の皆さんにおおまかなイメージをお伝えするための概略です。各自の研究費の執行にかかる正確な取扱いについては、必ず各部局の会計担当者にご確認ください。
以上のように、産休・育休中には研究費の執行ができなくなる場合があるため、本人の希望で、産前休暇の開始時期をできる限り遅らせる、あるいは取得しないというケースもあるようです。もっとも、妊娠の経過次第では、出産予定日を待たず、入院や早期の出産に至ることもあり、また、産後休暇は強制的に取得することになります。したがって、とりわけ、自分が研究代表者になっている資金で行われている共同研究については、休んでいる間の扱いにつき関係者と相談しておく必要があります。
育児休業については、いつまで取得するのかについて悩まれる方も多いと思われます。これについては、次回取り上げたいと思います。
(文責 育児・介護支援事業WG 専用アドレス:ikwg@mail2.adm.kyoto-u.ac.jp)
注1)本文の記述は、特に注記がない限りは、常勤教職員の場合を前提にしています。各自の雇用形態にかかる京都大学の制度については、以下のウェブサイトをご確認いただくとともに、事務担当者に詳細をお尋ねください。
https://www.kyoto-u.ac.jp/sites/default/files/embed/jaaboutgender_equalitydocuments201908.pdf
また、産前休暇・産後休暇・育児休業にかかる法制度一般については、以下のウェブサイトをご参照ください。
https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/ninshin/sanzen_sango.html https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/ninshin/ikuji.html
注2)本文の記述は、いずれも妊娠した女性について現行制度についてです。育児休業について法改正に基づく制度変更が予定されております。新制度および男性の育児休業や育児参加一般については、また回を改めて取り上げたいと思います。(改正育児・介護休業法については厚生労働省の「育児・介護休業法について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html 参照)
本学には、外部資金で雇用されている常勤研究者の産前・産後休暇の給与相当額を支援する制度がございます。
https://www.cwr.kyoto-u.ac.jp/support/research/expenses/ また、学術振興会の特別研究員は、出産または育児に伴い研究に専念することが困難な場合には、一定の場合、採用の中断及び延長を申請することができますが、中断期間中は研究奨励金も支払は停止します(ただし、研究再開準備期間中には半額が支給されます)。「日本学術振興会特別研究員 遵守事項および諸手続の手引き 令和3年度版」18頁参照。
注3)支給額は、支給対象期間(1ヶ月)当たり、原則として休業開始時賃金日額×支給日数の67%(休業開始から6ヶ月後は50%)相当額となっています。
注4)育児休業等の取得に伴う科研費の交付申請の留保や中断については、科研費FAQの【Q5201】(令和3年10月版であれば、31頁以下)をご参照ください。https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/01_seido/05_faq/data/kakenhi_2021faq.pdf
過去のコラムは、こちらでご覧いただけます。https://www.cwr.kyoto-u.ac.jp/column/mina/
連載: 研究者になる! -第87回-
環境安全保健機構 健康科学センター・助教 中神 由香子
●悩んだ末に決めた医師への道
江戸時代に活躍した医師の一人で、門下生が3000人もいたとされる中神琴渓、私はその中神琴渓の末裔(10代目)にあたります。そのため、父、祖父、曾祖父と代々医師であり、親戚にも医師が多かったことから、自然と医学の道に興味を抱くようになりました。ただ当時、同志社高等学校に通っていたのですが、内部推薦で進学できる同志社大学には医学部がありません。また、安易な気持ちで医師という職業を選択したくない思いがありました。将来どうしたいか真剣に悩んだ末、医学部受験を選ぶことにしました。
京大医学部に合格しましたが、入学した当初は恥ずかしながら、医師=臨床医と考えていました。研究をする医者は変わり者なんじゃないか?といった偏見すら抱いていました。ところが、6年間の医学部生活の中で、熱い思いを抱き研究室に通っている同級生や先輩の存在が気になり始めました。好奇心から研究室に通い、ドイツの研究室で実験する機会もありました。しかし、当時は動機が明確でないこともあり、あまり長続きしませんでした。ただ、振り返ってみると、この学生時代の研究経験があったからこそ、臨床医になった後に基礎研究を行う選択肢が生まれたのでしょう。今では学生時代に研究に携わることができた有難さと意義深さを強く感じています。
医学部を卒業し初期研修医として精神科臨床に携わる中でやりがいを感じ、精神科を専門とすることにしました。そして、統合失調症と出会いました。統合失調症は幻覚や妄想が特徴的な精神疾患ですが、その病態には未解明な点が多く、今も根治的治療方法は見つかっていません。長期入院を余儀なくされている沢山の患者さんを目の当たりにし、なんとか良い治療方法を見出せないだろうか、と研究への思いが募るようになりました。
●仮説から世界で初めての発見へ
幻覚や妄想といった症状が特徴的とされる統合失調症は思春期から20代の若い時期に発症します。生涯有病率は約1%であり、決して珍しい疾患ではありません。なぜ統合失調症になるのか、について研究が行われ、遺伝子異常や免疫異常などの様々な要因との関連が明らかになってきましたが、未だ解明されていることは多くありません。
一方、2007年に抗NMDA受容体抗体による脳炎が報告されました。この脳炎では統合失調症と似た症状が引き起こされますが、統合失調症と異なり、免疫療法を含む根治的な治療方法が存在します。抗NMDA受容体抗体が発見される以前は、この脳炎患者さんの一部は統合失調症と診断されていた可能性があります。
私はこの事実を知り、まだ見つかっていない未知の抗体によって統合失調症症状が出現している一群があるのではないか?と思うようになりました。そして、一部の統合失調症患者の病態には自己抗体が関連しているのではないか、という仮説のもとに研究を行うようになりました。その結果、ミトコンドリア代謝に関連するPDHA1に対する抗体を有する一群が、統合失調症患者に存在することを発見し、世界で初めて報告されることになりました。その後はさらにこの抗体の病的意義解明のため研究を深めています。
●臨床と研究を両輪に
大きな夢を持って、細くとも、長く
私自身の研究が臨床に根差していることもあり、臨床業務も大切にしています。そのため、研究に割ける時間には限界があります。一方、研究にはこれだけやれば終わりという限界はなく、やればやっただけ、新たにやるべき事が出てくる側面があります。そのため、たとえ研究を進めるスピードが遅い状況になっても焦りすぎないように心がけ、細くとも長く、継続的に研究を進めていくことを信念としています。
私には娘がおりますが、残念ながら夫のサポートが得られず、家事や育児は私が担っています。仕事と家庭生活の両立には、福利厚生が役立っています。家事や育児を手伝ってもらえる環境が理想的だと思いますが、そうでなくても福利厚生を利用しながら仕事や研究を諦めない道もあると思います。どのような状況であっても、今やれることを精いっぱいやるしかありません。私は統合失調症の治療をより良いものにするという大きな夢を持ち、細くとも長く、研究を続けていきたいと思います。